【KAC20234】妖怪猫又の虎吉😸の気ままにのんびり深夜のお散歩

天雪桃那花(あまゆきもなか)

深夜のみっしょんニャン

 うららかな春ニャ。


 春がやって来たのニャン。

 ようやくあったかくなってきたニャ。


 こんな日の日向ぼっこは、のんびりおだやかいい気持ちニャン。

 そうニャ、出掛けるのも良いニャンねえ。


 春はお出掛けすると気持ちがいいのニャアァァン……。


 あくびをしたあと、伸びをするとニャ、オイラの二本の尻尾の先まで全身がぷるぷるってなるのはなんでニャンか?


「ふわああ〜、いくらでも眠れそうニャ」


 家の縁側はぽかぽかぬくぬくニャンよ。

 庭の桜も咲いて綺麗だニャン。



 ぽかぽか陽気の春は格別の気分ニャンね〜。

 夜もあんまり冷え込まなくなって来たニャ。

 そろそろパトロールを再開するニャン。

 寒い冬は猫のオイラには辛すぎたのニャ。

 ニャハハッ、ヒーローのお仕事をサボりがちだったニャンが、もう大丈夫ニャ!



 今夜は満月、夜桜を見ながら深夜のお散歩に……パトロールみっしょんニャンよ。

 妖怪だぬきのポン太に『お花見宴会で桜餅の食べ比べ会』に誘われていたからニャ、ついでに寄ってやるかニャン。


 オイラの名前は妖怪猫又の虎吉ニャ。

 気づいたら妖怪になってたニャンよ。猫だった頃の記憶はあんまりないニャン。

 たまに、猫時代のご主人様だったのか、可愛いポニーテールの女の子の夢を見るぐらいニャ。



 家の柱時計がボンボン鳴ったニャン。

 その音で寝てたオイラはニャッと飛び起きたニャンッ!


 あ〜、びっくりしたニャ。


 真夜中深夜、零時を過ぎた頃、オイラはこっそりすたすたジャーンッとお出掛けニャン!


 暗がり夜の道には、妖怪あやかし連中がうじゃうじゃいるニャン。


 たまに人間の酔っぱらいが通るニャ。

 するとイタズラ妖怪たちは驚かして、ケラケラゲラゲラ喜んで笑ってるのニャン。


 あーあ、まったく。

 オイラはそんな子供な真似はしないニャン。

 なぜならオイラはヒーローだからニャ!


 美しく幻想的なピンク色に染まる夜桜を見ながら、オイラはのんびりお散歩……じゃニャくてパトロール中ニャン。


 あとで妖怪だぬきの『お花見宴会で桜餅の食べ比べ会』に参加するニャンが、今は空いた小腹の音を聞かないフリして任務続行ニャン。


 夜はお腹が空くニャン……、早く桜餅を食べたいニャア……って駄目ニャン、パトロールに集中だニャ。


「んっ? お前、誰ニャン?」


 廃駅になった駅のホームに、ポニーテールの女の子が立っているニャン。


「猫ちゃんだ。私、迷子なんだ」

「迷子? オイラが家まで送ってやるニャン」


 女の子は悲しそうに笑った。

 なんニャ?

 そういやこの子、人間のくせにこんな夜中に出歩いて……普通じゃないニャン。


「お家じゃなくって、行かなくちゃいけないところがあるの」

「ニャに言ってるのニャ? 子供が夜中に出かけては駄目ニャン、大人しく家に……」


 オイラがその子の手を掴もうとしたら、オイラのプリティな肉球の手がスルッと向こう側に抜けてしまったニャ。


「ニャニャッ! お、お前は幽霊かニャ!?」

「幽霊? そうなの? 私、オバケなの?」

「まさか記憶喪失ニャンか? お前、オバケになったばかりニャのかニャ?」


 女の子は首をかしげて不思議そうにしてるニャン。


「行きたいところがあるって言ってたニャンね。オイラが連れて行ってやるニャ」

「でも……」

「どうしたニャン?」

「どうしても行きたいところがあると思うのだけど、どこかが分からないの」


 オイラは困ったニャン。

 女の子がしくしく泣き始めて、オイラほとほと困り果てたのニャ。

 オイラに女の子から悲しいのが移ってくるのか、胸がぎゅぎゅっと痛くなるのニャン。


「ニャア? あんまりいっぱい泣くニャ。オイラどうしたらいいか分からなくなるニャンよ。そうニャ! お花見に行ってみるかニャン? きっと楽しい気分になるニャ」

「お花見?」

「綺麗ニャンよ〜。夜桜を見てえ歌ってえ、踊るニャ。オイラの友達妖怪のたぬきもたくさん来てるニャン。きっと気分転換にもなるニャ」


 女の子は、ぱあっと花が咲いたみたいに笑ったのニャン。


「笑ったほうが可愛いのニャン。さあ行こうかニャ」

「うん、ありがとう、猫ちゃん」

「猫ちゃんじゃないニャ、オイラの名前は虎吉ニャン」

「トラキチ。……トラキチありがとう!」

「いいニャンよ。ニャハッ、なんか照れるニャン」


 オイラは女の子を連れて、かくりよっていう世界にやって来た。

 ここは不思議な世界ニャ。

 うつつであり幻想ゆめせかい

 本当であり偽物。

 現実で非現実。

 とにかくまやかしあやかし、不思議が横行した世界なのニャ。

 桜の木がいーっぱいあっていーっぱい花が咲いているかくりよの小高い丘、桜満開の「星降りとうげ山」にやって来たのニャ。

 この丘には満月の晩に、銀河宇宙から直接流星が降ってくるニャン。

 今夜はだから、満開の夜桜と流星群と戯れることの出来る特別な日ニャ。


 大きく黄色いホットケーキみたいなお月さまと、月光に照らされ淡く輝く桜の大樹が美しいのニャン。

 花々が吹雪く、花弁散って舞って降ってヒュラリヒュラリと空中で漂ったり泳いでいる。

 裏に表に花びらひらひら、ピンク色白っぽい色まばゆくきらきら。


 星降り丘には妖怪だぬきの仲間がたくさんいて集まった群れが宴会大騒ぎしてるニャンよ。


 桜の花びらが優しい風に乗ってどんどん散り舞う、オイラも女の子もたぬきたちに混じって踊って歌うニャ。


 女の子はオバケだけど、ここかくりよでならジュースも飲めるし桜餅も食べることが出来るニャン。

 ここでならさっき触れるれことが出来なかったのに、女の子と手も繋げて踊れたニャン。


 それが女の子も嬉しかったのか抱きつかれたニャ。


「ニャニャニャッ! やめるのニャ、ぐ、ぐるじいのニャン」

「フフッ、ごめん、ごめん」


 いくら嬉しいからって楽しいからってニャアッ、ギュウ〜って強く抱き締められたから苦しかったのニャン。


 でもほっぺくっつけてスリスリされるのはなぜか嬉しいニャア。


「トラキチのほっぺた、ぷにぷにもふもふ……気持ちいい。あ〜っ、すっごく楽しい! トラキチありがとう!」

「良いのニャン。ニャア、自分の名前、思い出したかニャン?」

「ううん」

「そうかニャ。思い出すまで『桜』って名前はどうかニャ? 名前がないと不便ニャンよね」

「サクラって良い名前ね。うん、そうする。ありがとう! トラキチ、いつまでも一緒だよ」

「桜、いつまでも一緒にそばにいるニャン」


 女の子……桜はオイラにまた抱きついてきたのニャン。


 なんだニャ? ……桜ってニャ、なんか懐かしいお日様の匂いがするニャン。


「そういやこの匂い、どこかでかいだことがあるような気がするニャンね……」

「トラキチ……虎吉。……虎吉っ! ――私、あなたに会いたかったんだ! 私の行きたい場所は虎吉のところだったのを思い出した!」

「ああ……。桜……桜ちゃんニャ。ああ、ご主人さまニャ。オイラも思い出したニャン。……桜ちゃんとオイラ、ずっとずっと一緒にいられるニャンね? オイラもう、桜ちゃんと離れないニャアッ……!」

 

 オイラがそう言ったら、桜の体が出会った時よりもっともっと透け始めてきたのニャ。


 桜、消えちゃうニャン、消えちゃいやだニャン!


 遠くで汽笛が聞こえたのニャ。


「天国行きの汽車の死神SL特急が、その迷子の女の子の魂を迎えに来たみたいだポン」


 友達の妖怪だぬきのポン太がオイラの頭をポンポンと撫でて慰めてくるニャン。

 今は、いつも嬉しい撫で撫でもあんまり嬉しくないニャ。


「いやニャ! もう一度お別れなんていやだニャッ! 桜、行っちゃいやニャンよぉぉ……」

「ごめんね、虎吉。最期に会えて良かったよ、ありがとう。虎吉、お友達と仲良くね、元気でね。虎吉……バイバイ」


 桜ちゃんの姿は完全に消えて、声が夜の空気に消えていくニャン。


 寂しいなニャア……。


 桜ちゃんとちょっとしか一緒にいられなかった。


「ポン太、オイラすっごく寂しいニャン」

「そうだね、寂しいの分かるポン。虎吉、お花見の続きしようかポン」

「そうニャンね、お花見の続きするニャ。にゃあポン太、オイラ、オイラ……もっともっとヒーロー頑張るニャン!」


 オイラ、夜空を仰いだニャ。目をよぉくこらしたら桜ちゃんを乗せた天国行き列車が流星と同じ輝きを放っていたのニャン。



      おわり



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