第15話 奈落

 14話も語っていくと、ネタが尽きてきた。


 ここからは、自分の「先生」、いや、あの人は、「先生」と呼ばれるのを嫌がっていた。そう、蜷川さんのように。

 

 ある日の話だ。


 いつ、その話にたどりついたかは、わからない。


 私はこう聞いた。


 昔、つまり、当時2000年ごろだったので、私が生まれる前、1980年ごろの話。


 私が役者をしていた頃の嫌がらせは、靴にがびょうを入れられる、なんてものじゃなかった。詳しくは話したくないけど。


 あ、そうそう。


 宝塚に入りたいって言ってたわよね、あなた。


 宝塚、というのは、この場合、宝塚音楽学校のことを指す。


 宝塚の怖い話、知ってるかしら。

 

 昔、大昔よ。


 奈落ってわかる。


 そうよ、あの奈落よ。


 ライバル、自分にとって、目障りな存在がいたの。


 その子にとっては、ライバルがいる限り、舞台に上がれない。


 それに、上を目指すこともできない。


 悩んだ彼女は、奈落を動かす係の人を口説き落として、悪魔の誘いに乗ったその人は。


 奈落を操作して、彼女のライバルを、殺したの。


 それが、宝塚で、最初に死んだ女の子。

 

 つまり、あなたが行くのは、行こうとしているのは。そういうところなの。


 わかる?


 話は、終わった。


 今でも震えが来るこの話を思い出したのは、先代の市川染五郎が、奈落に落ちた、と聞いたからだ。


 彼もまた、才能あふれる俳優で、だからこそ嫉妬を買ったのだろう。


 芸能界は、そういう、地獄もある、という話。


 なお、私が奈落に落ちた女優の名前を知ったのは、ウィキペディアのおかげだ。



 香月弘美。


 なぜ、あれが、事故であり、責任者が追求をまぬがれたのか。


 なぜ、あの人は、事故だと知っていたのか。


 私には、わからない。

 

 

 第15話、終わり。




 


 


 

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