第14話 望月と遠吠え 9
「なんで、なんでここを────ッ!?」
再びの強い衝撃がシェルターを襲う。停電により蛍光灯が消え、代わりに赤い非常灯が点灯する。
「うぅ~~ごめン……多分ボクのドローンの信号を逆探知され────ひゃああっ!?」
床にしがみつくようにして揺れに耐える二人。スマホの画面には、滅多打ちにあっているTC-1が映る。
「まずい……このままじゃエースパイロットちゃんガ……!」
「なんでアイツ、庇うようなマネを! このシェルターは地下深くにあるんだから、ヴァンガードの攻撃ではビクともしないでしょう!?」
「あのヴァンガードは触手を地面の下にくぐらせてTC-1を奇襲した。エースパイロットちゃんはこのシェルターが攻撃に耐えられないと判断したんだヨ……!」
◆◇◆
「"危険、機体の耐久値が減少しています。直ちに脱出してください。危険、機体の耐久値が─────"」
「うるさいッ!」
エレンはコクピットのスピーカーを叩き壊した。無茶をした拳のから血が流れる。今のエレンにとって、雑音は死活問題だった。ボロボロのTC-1のメインカメラとサブカメラはとっくの昔に破壊されている、今エレンはコクピットの外の音を直接耳で聞いて、なんとかTC-1を動かしているのだ。
(あと数発……それ以上は機体が持たない……!)
エレンは目を瞑る。機体の前方で、空を切る音がかすかに聞こえる。心臓が跳ねる。エレンは瞬く間にシートベルトを外すと、身体を大きく左に傾けた。
次の瞬間。TC-1の胸部装甲を突き破り、コクピットに侵入してきた巨大な触手が、エレンの座る座席の背もたれを破壊する。コクピット内に飛び散った機体の破片がエレンに襲い掛かり、いくつもの傷をつける。触手が掠めたエレンの脇腹から鮮血が流れ出る。
「ッ……!」
触手はTC-1の胸部装甲とコクピットルームを貫いていた。突き刺さっていた触手がズルリと抜かれると、TC-1は特別教室棟に倒れるようにもたれ掛かる。開けられた穴から、エレンは異形のヴァンガードを睨みつける。血塗れのエレンを、異形のヴァンガードは静かに見つめていた。
触手が再び振り上げられる。その時だった。唸りを上げるトラックのエンジン音が遠くから聞こえてきた。エレンは直感的に理解する。
「ヒビキ!」
◆◇◆
黒くて刺々しい、端的に言えばものすごく悪趣味なトラックが土煙を上げながら走る。その運転席ではヒビキがハンドルを握っていた。ヒビキの目線の先、特別教室棟にもたれかかるようにして沈黙しているTC-1はボロボロで、コックピットのある胸部には大穴が開いていた。しかし、ヒビキにはエレンがまだ生きているという根拠のない確信があった。
「エレン! 飛べええええええええッ!」
トラックのアクセルを全速力で踏みながら、ヒビキは叫んだ。TC-1と異形のヴァンガードの間を目掛けてトラックは砂煙を上げる。異形のヴァンガードがそれを阻もうと触手を振り上げる、ヒビキは首にかけていたヘッドホンを片耳に押し当てて異形のヴァンガード睨み、叫んだ。
「落ちろ!」
ヒビキの”命令”によって触手はまるで糸が切れたように地面に落ちる。その様を見て、エレンはトラックの荷台目掛けてコクピットを飛び出した。
完璧なタイミング。エレンは、ヒビキの運転するトラックの荷台、その上に眠る鋼の巨人の上に華麗に着地した。エレンの白いツインテールが風になびき、脇腹から零れる赤い血が風に吹き散らされて流れる。
「話は後だ! まだ戦えるか! エレン!」
「もちろん」
そう言ってエレンは微笑むと、レッドカードを取り出し、巨人の胸にかざした。
◆◇◆
「”ヴァンガード『パーフェクトムーン』起動します”」
ヒビキが丸二日徹夜して設計と建造を急ピッチで終わらせたエレン専用のヴァンガード、パーフェクトムーン。鋼の巨人のアイカメラが赤く光り、胸のハッチが開く。
「今朝建造が終わったばかりでまだフル充電じゃない! 全力機動は30秒が限界だ!」
「問題ない」
エレンはコクピットに飛び込む。異形のヴァンガードは怒り狂ったように触手を震わせ、トラック目掛けて飛び上がる。ヒビキは更にアクセルを踏み込み、運動場を囲うフェンスを破壊してトラックを進めた。工事現場に突っ込み、資材や足場をなぎ倒しながら猛進するトラックのすぐ後ろに、異形のヴァンガードが着地し猛烈な土煙が上がる。土煙を突き破り、揺れるトラックの荷台の上で、パーフェクトムーンはその巨体を起こした。
「"パイロットID、認証。コード000。エースパイロットモードを起動します。
モーターが唸り、新品のギアがキリキリと快音を立てる。ウサギの耳のような大きな二本の角。エレンの身体をそのまま何倍にもしたような白くて細い華麗なシルエット。TC-1と比較しても小さなそのヴァンガードは、トラックを猛追する異形のヴァンガードと荷台の上で睨み合った。赤い光に包まれるコクピットの中でエレンは深呼吸をし、操縦桿を握る。
「出る、援護の判断は任せる」
そう言ってエレンはトラックの荷台を蹴り、異形のヴァンガードに飛び掛かった。ヒビキはハンドルを切りながら叫んだ。
「エコーシルエット!」
「"ヴァンガード『エコーシルエット』、ビークルフォームからヴァンガードフォームへ換装します"」
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