第37話 彼女が連れ去られる
おじぃちゃんの事が好きだった。
だけど今ここで俺は祖父を倒す。
俺は佐伯さんを見る。祖父なんかより、彼女の方が大切だった。
「ワシを倒すつもりか?」
濃縮された魔力が祖父から溢れ出す。
俺は後ずさった。
フッ、と祖父が笑う。
「ワシの覇王色の覇気を食らって、後ずさっている小僧がイキがってんじゃねぇぞ」
「…‥なんでクソジジィのくせにジャンプが好きなんだよ。孫の名前は覚えてねぇのに覇王色の覇気とか覚えてんじゃねぇよ」と俺がイライラしながら呟く。
「小僧にワシの力を見せてやろう」
とクソジジィが言った。
「はぁーーーーー」と祖父が叫ぶ。
おじぃちゃんの筋肉がメリメリと膨れ上がる。
それに応じて魔力量も上がった。立っていられないぐらいの覇気である。いや、覇気ってなんだよ。
「佐伯さんは返してもらう」と俺が言った。
囚われた彼女を俺は見た。
グッタリとしている。
早く助けなくちゃ、と思った。
おじぃちゃんに佐伯さんを殺させない。
「これで50%だ」
とムキムキになった祖父が言う。
50%の力を解放した姿なんだろう。
祖父の筋肉の鎧は山すらも持ち上げそうだった。
俺は動いた。
クソジジィの目の前にやって来る。
そして祖父を殴った。殴った殴った殴った殴った。
筋肉の鎧は固く、ダメージが効いていないようだった。
祖父は避けることすらしない。
「フッ」と祖父が笑った。
「そんなものか?」
腹を殴り、顎を殴り、頬を殴った。1秒間で何千発も打ち込んだ。俺は佐伯さんを助けるために全力だった。
「……そんなものか?」
と祖父が、また尋ねた。
おりゃやー、と俺は叫んで何千発も全力で殴った。
祖父は一切避けなかった。
「おいおい、そんなものか小僧」
と祖父は言って、膝をついた。
「まだ50%だぞ」
とクソジジィが倒れながら叫んだ。
「100%を見せる前に終わるとはな」
「倒れた側が言うセリフじゃねぇーな」と俺が言う。
「それに俺のパンチ効いてたんだ」
一切避けようとしないから俺の攻撃なんて微塵も効いていないと思った。
倒れるほど効いてるじゃん。
「佐伯さんを解放しろよ」
と俺が言う。
「それは嫌じゃ」とクソジジィが言う。
「この女はワシが殺す」
「なんでだよ。孫の大切な人を殺して何が面白いんだよ」
佐伯さんが捉えられていた土の拘束具がメリメリと地面に入り込んで行く。
俺は彼女に向かって走った。
「佐伯さん」
と俺は彼女に手を伸ばす。
でも彼女は地面に飲み込まれてしまった。
俺は素手で土を掘り返した。でも、もう彼女が現れることがなかった。
「佐伯さん、佐伯さん、佐伯さん」
と俺が叫ぶ。
「深層にワシの仲間がいる」と老人が言った。「全員倒したら彼女を返してあげよう」
と老人が言った。
俺は倒れているクソジジィを睨んだ。
殺したいぐらいにムカついた。
「その仲間に俺も含まれているんだよ。思い出せよクソジジィ」
老人は不敵な笑みを浮かべて消えてしまった。
佐伯さんが連れ去られてしまった。
もしかして本当に殺されるかもしれない。
佐伯さんの笑顔を思い出した。佐伯さんの涙を思い出した。佐伯さんの……。俺は彼女の何を知っているんだろう? もっと彼女のことを知りたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます