第36話 佐伯さんが人質

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

 生配信におじぃちゃんがヘビモスの乳首を吸っている映像が映ってしまった。

 チュッポ、と音を立ててクソジジィが乳首から口を離す。


「風子、映さないでくれ」

 と俺は懇願こんがんした。


「映さないように頑張っているんだけど、どこにカメラを向けてもおじぃさんが現れるのよ」

 と風子が言う。


 おじぃちゃんはロケ番組で調子に乗った中学生がカメラに映り込むように、わざとレンズの先に向かってピースサインをしている。

 姫子を撮しても、佐伯さんを撮しても、俺を撮しても、おじぃちゃんが入り込む。


「イェーイ」

 とおじぃちゃんがカメラのレンズに向かって、痰の絡んだザラザラ声でピースをしていた。


 俺がおじぃちゃんを睨んだ。

 祖父と目が合う。


「なんじゃお前?」と老人が俺に対して言った。


「もう、やめろよ」と俺は小さな声で呟いた。


「なんだ小僧。ワシに文句があるのか?」

 と祖父が言った。


「小僧じゃねぇーよ。英雄だよ。カッコ悪いことはやめてくれよ」と俺が言った。


 おじぃちゃんの行動が恥ずかしい。それ以上に大好きなおじぃちゃんの、こんな姿を俺は見たくなかった。


「英雄? 知らんな。ワシと戦う意味をお主は知っているのか?」と祖父が冷酷な声で尋ねた。


 知らねぇーよ、と俺は呟いた。


 祖父は消えた。

 「キャー」と悲鳴が聞こえた。


 気づいたらケロベロスは倒され、上に乗っていた姫子と佐伯さんが老人に首を絞められていた。


「佐伯さん」と俺は叫んだ。

 叫んでしまった。


 おじぃちゃんが佐伯さんのことを知っている訳がない。

 だけど俺の目の動きを読み取り、

「お主の大切なモノはコッチか」と呟いて、姫子を手放した。


 佐伯さんが首を絞められてもがいている。


「クソジジィ」と俺は呟いた。

 祖父がラスボスをやっていたとき、おじぃちゃんはパーティの中で1番強い奴だけを残して、大切な仲間を無惨に殺していく姿を見るのが好きだと言っていた。サイコパスジジィなのである。


 祖父が土系魔法を使った。

 地面からニョキニョキと生えてきた土に佐伯さんは両手足を拘束された。


 佐伯さんの首を掴んでいた手を祖父が手放した。


 ゴホン、ゴホン、と佐伯さんが咳き込む。

 熱湯のように熱いモノが体の底から溢れ出す。


「佐伯さん」と俺が叫ぶ。


「魔王くん」と彼女が呟いた。


「今、助ける」と俺が言う。


「お主をボコボコにして動けなくなったところで、お主の目の前でこの女のはらわたを取り出してやろう」

 祖父はそう言って、悪者のようにニヒルに笑った。


 佐伯さんは殺させない。

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