第34話 老人のかめ○め波
今日中に牛乳を絞って家に帰らなくては母親に怒られる。もしかしたら殺されるかもしれない。
だから彼女達をケロベロスに乗せて、ダッシュで家に向かった。
40階層まで辿り着く。
40階層には大きな扉がある。
大きな扉は牧場と繋がっていた。
その前に1人の老人が立っていた。
サザエさんに登場する波平さんを皺くちゃにさせた老人である。
「おじいちゃん」と俺が言う。
目の前の老人は、俺のおじいちゃんだった。
「よく来たな勇者よ」
と老人が言う。
「勇者じゃねーよ。俺だよ俺」
と俺は言った。
「お前など知らぬ。新手の詐欺か。お金を振り込むから口座を教えてくれ」
とおじいちゃんが言う。
「詐欺だと思ったらお金を振り込んじゃダメだよ」
と俺が言った。
「世界の半分をお前にくれてやろう」と老人が言う。
おじいちゃんは俺の話を聞いていない。悲しいことにおばあちゃんが死んでからおじいちゃんはボケが始まっている。
「……おじいちゃん」と俺は呟いた。
祖父がボケているのは、孫として寂しい。
「そうか。勇者よ。このワシと戦うか。よかろう。かかって来い」
「おじいちゃん。英雄だよ。英雄」
と俺が叫ぶ。
「ひ、で、お」と老人が首を傾げた。「知らん」
「ボケてるの?」とケロベロスに乗った風子が尋ねた。
「あぁ」と俺が頷く。
「大変ね」と風子が言った。
それゃあ元世界最強のラスボスがボケているのだから大変である。でも調子がいい時は家族のことも覚えているのだ。
今日は、ちょっと調子が悪いだけである。
「ファ……」とおじいちゃんが叫んで、自分が何の魔法を出すのか忘れて固まっている。
たぶんファイアを出すつもりだったんだと思う。
「サブロー、3人が被害に合わないところに隠れてくれ」と俺はケロベロスに命令する。
ケロベロスが走って、離れて行く。
「……」
老人は自分の手のひらを見た。
なにかを思い出したようにハッとした。
「かめ○め波」
と老人は叫んで、ある漫画を思わせる魔力攻撃を出して来た。
おじいちゃんのモーションが大きい。だから避けるのも余裕だった。
ある漫画を思わせる魔力攻撃を避けるために俺は走った。
魔力量が半端じゃないおじいちゃんは超高性能レーザーのように亀仙人の秘伝の技を手から出し続ける。
かめ○め波はダンジョンの天井や壁を破壊していく。
俺はおじいちゃんの周りをグルグルと周った。
おじいちゃんは俺を追いかけるように、その場でかめ○め波を出しながら回る。
おじいちゃんが尻もちをついて、ようやく魔力攻撃を止めてくれた。
「英雄〜、英雄〜」とおじいちゃんが俺の名前を呼ぶ。
ようやく俺のことを思い出してくれたか。
俺はホッとする。
「助けてくれ〜」
俺はおじいちゃんを起こすために近づ行った。
老人に近づいた瞬間、おじいちゃんは襲って来た。
「これはクリリンの分」とおじいちゃんが言って、俺の頬を殴った。
殴られた勢いで俺は飛ばされて行く。
老人ダッシュ。
俺が壁にぶつかり、地面に倒れるとおじいちゃんが馬乗りになってきた。
「コレもクリリンの分」と老人が言って、俺の頬を殴ってくる。
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
「コレもクリリンの分」
クリリンの分が多すぎてねぇーか?
ようやく老人のラッシュが止まった。
おじいちゃんは俺を見下ろしている。
「お前に言いたいことがある」と老人が言った。
「なんだよ」と俺はボコボコの顔面で尋ねた。
「クリリンって日によってはエッチな言葉に聞こえるよな」と老人が言う。
全力で知らん、と思う。
目の前のクソジジィは完全にイカれてやがる。
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