第32話 大人

 俺達は30階層にいる。

 休憩所は火気厳禁なので、休憩所からは出ていた。魔物が彼女等を襲わないように俺は魔物避けの結界を張っていた。


 せっかくオークキングの肉を焼いたのに3人は食べないらしい。仕方がないので1人で肉を食らった。

「よく、そんなお肉食べれるわね」と佐伯さん。


「何言ってんだよ」と俺が言う。

「宿屋でケンタウルスかミノタウルスか忘れたけど、魔物のお肉を食べてたじゃねぇーかよ」


「ケンタはいいんだよ」

 と佐伯さん。


「ウルスも言えよ。どこぞのファースドフード店みたいになってるじゃねぇーか」

 と俺が言った。


 姫子と目が合った。

 俺は彼女にしたい質問があった。


「そう言えば大人ってなんだ?」

 と俺は尋ねた。


 風子に言われたのだ。俺は大人になっている可能性があって、そのせいでサンタさんがやって来ない可能性があるらしい。

 風子の口ぶりからして、姫子が大人の意味を知るキーパーソンっぽいのだ。


「急になんですか?」と姫子が戸惑う。

「哲学的な質問ですか?」


「知らん」と俺が言う。


「私にとって大人とは、コーヒーに砂糖を入れない人だと思う」と佐伯さん。


「佐伯さんには聞いてない」と俺が言う。


「ガーン」と佐伯さん。


「大人ですか……」と姫子が考えた。

「自分のことより、大切な人が出来たら大人じゃないですか」


 俺はチラッと佐伯さんを見た。


「それが大人なのか?」

 と俺は呟く。


「人は恋をして大人になるんですよ」

 姫子が上目遣いで俺を見てくる。


「恋をしてしまえば、サンタさんは来なくなるのか?」と俺は尋ねた。


「サンタさん?」と姫子が首を傾げた。

「私の初恋は13歳ぐらいだったから、その頃ぐらいにサンタさんは来なくなりましたわ」


 俺は恋をしているのか?

 姫子の話を聞いて、胸がチクッと痛かった。

 でも俺が佐伯さんに抱く気持ちは恋なのか?

 わからなかった。


「サンタさんからPS5は貰えないのか?」と俺はボソっと呟いた。


 遠くから、ただならぬ気配を感じた。

 すごい魔力を持った誰かが……たぶん俺の家族がコチラに近づいて来ている。

 殺気すらも感じる。


 彼女達を休憩所に隠さなくちゃ、と思った時には、すでにその誰かが近くに立っていた。

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