第31話 ダンジョンとんでも飯
「バスらなきゃ死ぬでお馴染み佐伯さんだよ」と女子高生の制服を着た女の子が、俺の隣で叫んだ。
風子がカメラを構えて撮影している。今日はキラキラ姫子チャンネルの生配信ターンである。
「頑張ってダンジョン探索。キラキラ姫子☆」
チャラリン、と効果音が似合うポーズ。
「この挨拶いる?」と俺は尋ねた。
「何言ってんの? 早く魔王君も顎顎ダンスしなくちゃ」と佐伯さんが言う。
「お馴染みの顎顎ダンスは俺にはねぇーんだよ」
「アゴ、アゴ、アゴの魔王」
と佐伯さんがガリ股歩きで、アホの坂田の登場を思わせるコミカルな動きをする。
「コレいつもやってんじゃん」と佐伯さん。
「やってねぇよ」と俺。
「それじゃあ代わりにアイーンやればいいじゃん」と佐伯さん。
「志村けんの往年のギャグを適当に振ってんじゃねぇーよ」
「なに? 地震?」
と佐伯さんが言う。
別にダンジョンは揺れていない。
彼女はふざけているのだ。
「転びそう。アゴ持たな」
と佐伯さんが俺のアゴを掴む。
「辻本茂雄のアゴをイジる時のギャグしてるんじゃねぇーよ」と俺が言う。
「さっきからアゴをイジってくるけど、アゴ出てねぇーし」
「はい、はい。わかっておりますよ。アナタはアゴが出てません」
「ちょっと嫌な感じの納得の仕方だな」
と俺が言う。
「むしろアゴが埋没してますよ」
と佐伯さん。
「してねぇーよ」と俺。
「元気ですか? 1.2.3ダァー」
佐伯さんがダァーのタイミングで俺のアゴを殴って来た。
「はい、ツッコミのフレーズどうぞ」と佐伯さん。
「痛い」と俺がアゴを押さえて言う。
「ボケが荒すぎて、逆にツッコミずれーわ」
「もう、よろしいかしら?」と姫子が尋ねた。
「よろしいよ」と俺が言う。
「魔王君が今から美味しい食事を作ってくれるみたいです」と姫子が言う。「楽しみですわ」
「30階層を超せばオークの群れの中に一体だけオークキングと言われる個体が混ざっているんだ。それが絶品なんだよ」と俺が言う。
みんなにラストダンジョンの最高に美味しい食事を食べてほしかった。
「はい。っで、魔王君はオークキングを狩りました」と佐伯さん。
彼女に言われて先にオークキングを狩っていた。放置していたらダンジョンが死体を吸収してしまうのでリュックに入れていた。
リュックからオークキングを取り出す。
「それがコチラ」と佐伯さん。
「すごいですわ」と姫子。
「それじゃあ切り分けよう」と俺は言って、リュックからミスリルで作られた包丁を取り出した。
オークキングを切り分ける。
「おーぇー」と3人分の嗚咽が聞こえた。
カメラのレンズもコチラを映さないようにしている。
オークキングの切り分けが終わる。
食べる分以外の肉はリュックに仕舞う。
リュックからフライパンとガスコンロとステーキのタレを取り出す。
「切り分けた肉を焼いていくぞ」
と俺は言って、ステーキサイズに切った肉をフライパンで焼いた。
肉の焼ける美味しい匂いが立ち込める。
「そして焼いた肉がコチラ」
と佐伯さんが言って、黄色い箱を取り出す。
「なに3分クッキングみたいに工程を省いてるんだよ。それに佐伯さんが手に持ってるのはカロリーメイトじゃねぇーかよ」
と俺が言う。
「美味しそうですわ」
と姫子が言う。
「肉って焼いたらチーズ味になるんですわね」
「だから、それはカロリーメイトなんだよ」
と俺が言う。
「さっそく頂きたいと思いまーす」
と佐伯さんが言って、カロリーメイトを食べる。
「サクサクして美味しい。コレが、あの野蛮なオークなんて思えない」
「だから、それはカロリーメイトなんだよ。何回同じツッコミさせるんだよ」
「本当ですわね。肉の臭みが一切しないですわ」と姫子が、カロリーメイトを食べながら言う。
「だから、それはカロリーメイトなんだよ。もう焼けたぞ。オークキングのステーキを食べろよ」と俺が言う。
「残った物はスタッフが美味しく頂きます」
と佐伯さん。
「そうですわね。私達はお腹いっぱいですわ」
コイツ等せっかく狩って来たのにオークキングを食べないつもりらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます