第30話 サンタさん

 スマホでのポケカ開封動画の撮影が終わった。


「佐伯さんに嘘をついてしまった事がある」

 と俺は告白した。


「嘘?」

 と佐伯さんが首を傾げた。


 俺は貰ったポケカを汚さないように丁寧にボックスの中に戻した。

 佐伯さんは10万円のカードをスリーブに入れて財布の中に仕舞っていた。


「さっき母親から誕生日にゲームを貰ったって言っただろう。アレは嘘なんだ。実はクリスマスにサンタさんからゲームを貰ったんだ」


「……サンタさん」

 と佐伯さんが呆然として口を開けた。


「驚く気持ちはわかる。だから黙っていようと思ってたんだ。サンタさんはラストダンジョンの深層にまで俺と妹のためにオモチャを届けに来てくれるんだ」


「……」


「探索者は誰も深層まで来ないのに、毎年サンタさんだけは俺達のためにプレゼントを届けに来てくれる。お礼をしたいけど俺達が寝ているうちに来て帰ってしまうんだ。だから顔も見たことがねぇ。そんな凄い奴が世の中にはいるんだよ」


 動画の編集作業をしていた風子がコチラを見て驚いていた。

 そりゃあ、そうである。

 何十年も探索者が来たことがないラストダンジョンの深層に、サンタのおじぃちゃんは毎年やって来るのだ。驚く気持ちはわかる。


「……凄いね。サンタさん」

 と佐伯さんが呟いた。


「だよな」と俺が言う。

「もしかして佐伯さんの家にも来るのか?」


「……えっ。……私の家にも来るけど」

 と佐伯さん。

 

「よかった」と俺は呟いた。

「俺の家に来たことでサンタさんが他の家に行けていないかもしれない、ってずっと思ってたんだ」


「どうして?」と佐伯さんが尋ねた。

 

「俺の家に寄るのに時間がかかってしまうだろう。そしたら他の家に寄る時間が無くなってしまうだろう」


「そうだね」

 と佐伯さんが言って、ニッコリと嬉しそうに笑った。

 やっぱりサンタさんの話をする時は、みんなニッコリ笑ってしまうモノなのである。


「サンタさんはすげぇーな。1日で世界中を回ってるんだもんな。俺ん家に来るのに超絶に時間かかってるよな。本当に申し訳ねぇーわ。サンタさんが他の家も回っているって聞けて良かったわ」


「魔王君って可愛いわね」

 と風子が言う。


「はぁ?」

 と俺が首を傾げる。

 どこを切り取って可愛いと思ったのか不明である。


「私の家にはサンタさんは来ないわよ」


「マジか? それって、もしかして俺達が優先されたせいか? だからサンタさんが来ないのか?」


「大人だからだよ」

 と佐伯さんが言った。

「サンタさんは大人のところには来ないんだよ」


 俺はホッとする。

 もし俺達が優先されて風子の家にサンタさんが行けないのなら本当に申し訳ないと思ったからである。


「次のクリスマスには何を貰うの?」

 と風子が尋ねた。


「PS5」

 と俺が答える。


「もしかしたら下宿しているからサンタさんが来ないかもしれないよ」

 と佐伯さんが言う。


「えっ! 俺が下宿している事をどうやってサンタさんに伝えたらいいんだろう?」

 と俺が言う。

 急にサンタさんが来ない可能性をつきつけられて不安になった。

 PS5をサンタさんから貰って、FFの新作をやろうと思っていたのだ。俺の計画が台無しになる。


「下宿に住んでいるからじゃなくて、もしかしたら大人になったからサンタさんが来ないのかもしれないわよ」

 と風子が言った。


「俺、まだ18歳じゃねぇーよ」


「スリープ」

 と風子が言って、佐伯さんの頭に手をかざした。


 佐伯さんは座っていた祭壇みたいなベッドに頭を打ち付けて眠ってしまった。

 

「私の得意な呪文なの」と風子が言う。


 風子はスリープが得意らしい。スリープとは眠らすスキルである。


「私が言っている大人って言うのは、年齢のことじゃないの」


「それじゃあ、なんだよ?」

 と俺は尋ねた。


「魔王君は昨日の晩に何をしてた?」


「何もしてねぇーよ」


「覚えてないの? 姫子とイチャイチャしてたじゃない」


「……夢でイチャイチャしたけど」


「夢じゃないわよ。途中で私が魔王君を眠らせただけ」


「……」

 あれは夢じゃなかった? 俺は眠らされていた?


「証拠の動画も撮影しているわよ」


「……」

 どんな動画を撮影してんだよ。


「君は佐伯さんが好きなんでしょう? 佐伯さんに姫子とイチャイチャしている動画を見せられたくなかったら1つだけ私のお願いを聞いてほしいの?」


「ちょっと待って。それと大人と何の関係があるんだよ?」


「フフフフフ」

 と風子が含み笑いをした。

「それはファンタジーだから内緒」


「……マジで大人と、どういう関係があるんだよ?」

 と俺が言う。


「クリスマスにサンタさんが来なかったら魔王君は年齢とか関係なく大人なのよ」

 と彼女が言う。


 意味がわからなかった。


「話を戻すわね。佐伯さんに姫子とのイチャイチャ動画を見せられたくなかったら私のお願いを1つ聞いてほしいの」


「なんだよ?」


「姫子のことは好きにならないで。だけど嫌いにもならないで。それと姫子とイチャイチャしたことは口外しないで。それと姫子に何かされても彼女に危害は加えないで。それと魔物やアナタの家族から姫子を絶対に守って」


「お願いは1つじゃなかったのかよ」

 と俺が言う。


「私は姫子が大切なのよ。私が言ったことを守らなかったら佐伯さんに姫子とのイチャイチャ動画を見せるからね」

 

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