第29話 ポケカ開封

 しばらくすると彼女達は眠った。疲れていたんだろう。

 スマホの時計を見ると夜の8時を回っている。

 ご飯も食べていない。そう言えばお腹も空いた。

 起きたら魔物を狩って焼いてあげよう。

 俺も固いベッドに横になって目を瞑った。

 すぐに眠りの世界に入って行く。



「はぁ、はぁ」

 と吐息が聞こえた。

 俺の体が誰かに弄られている。

 くすぐったくて目を開けた。

 制服のボタンを全て外されていた。

 姫子が赤ちゃんのように俺の胸をチャパチュパ吸っていた。

 大きなゴキブリと出会った時みたいに体が固まって動けない。


 俺のことを上目遣いで姫子が見ていた。

 彼女が俺の耳元に顔を近づけた。


「起きましたの?」

 と彼女が尋ねた。

「声を出さない方がいいですわ。佐伯様とお姉様が起きますもの」


 俺が彼女の肩を掴んだ。

「痛いですの」

 と彼女が言う。


 俺は手を離す。


「魔王様に手を出されたら叫んでしまいそうですわ」

 と彼女が言って、ニヤリと笑った。


 声を出せない。

 拒んで彼女に触れたら声を出されてしまう。


 佐伯さんに今の状況を見られたくない。

 俺は金縛りにあったように動けない。


 あれ? これ昨日も同じ状況だったような……。


 姫子が俺のベルトに手をかけた。

 彼女がヨダレをジュルジュルと垂らした。


「へへへへ」

 と人形のような美しい顔の女の子が変態的な笑い方をした。


「魔王様、声を出したらいけませんよ。私に色々とやられるしかありませんのよ」

 姫子が小声で喋りながら俺のベルトを外した。


 そしてズボンのチャックをゆっくりとズラす。


「いただきますわ」

 と姫子の声が聞こえた。


 俺は気絶した。

 



「起きろ。起きろ。魔王君。起きろ」

 と佐伯さんの声が聞こえて目覚めた。


 彼女はポケ○ンの絵柄が書かれた四角い箱の角で、俺のホッペをつついていた。

 反対の手にはスマホが握られている。

 動画の撮影をしているらしい。


 俺は目覚める。

 変な夢を見てしまった。

 姫子が俺を襲う夢である。

 あれは夢でよかったんだよな?

 なんか凄いエッチなことをされたような‥‥。


 目を開けて辺りを見渡す。

 風子はパソコンで動画編集をしていて、姫子はまだ眠っている。

 

「起きろ。起きろ。起きろ」

 と佐伯さんが言って、四角い箱の角で俺のホッペをつついてくる。


「起きてるよ」

 と俺が言う。


「ほら」

 と彼女がポケ◯ンの絵柄が書かれた四角い箱を差し出す。

「お馴染み朝のパック開封どうぞ」


「いや、お馴染みのって言われても初めてだし」


「これ買うために朝一からヨドバシカメラで並んだんだからね。可愛い女の子を当ててね」


「いや、意味がわからん」


「早く開封してよ」


「なんで俺が? つーか、未開封のカードのボックスなんて持って来るなよ」

 と俺が言う。

 パック開封動画を俺も見たことがある。

 それを彼女はやりたいらしい。

 いや、俺にさせたいらしい。


「いつもやってんじゃん。店長。パックをずる剥けてくだちぃ」

 と佐伯さん。


 はぁ、と俺は呟く。

 俺、店長じゃねぇーし。


 佐伯さんにハサミを渡されて、寝ぼけた頭で俺はパックを剥いていく。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 と佐伯さんの荒い呼吸。


「鼻息荒いな」

 と俺が言う。


「だってだってだってだって可愛い女の子ほしいじゃん」


「はいはい」

 と俺が言う。


 パックを全て取り出して、一枚一枚捲っていく。

 そういえばゲームはやっているけど、カードを開封するのは初めてだった。

 俺が知っているモンスターが現れるたびに、俺はカードを捲る手を止めて絵柄と効果を見た。

「いや、楽しいな」

 と俺が呟く。

「俺も夏休みが終わったらポケカしよう」


「いいから捲れ。捲れ。ショート動画にするつもりなんだよ。早く捲らんかい」

 と佐伯さん。


「いいじゃん。じっくり見せてくれよ」


「つーか魔王君ってポケ○ン知ってるの?」


「ゲームを母親から誕生日の時に買ってもらってたから」

 と俺が言う。

 あと好きなゲームはFFとドラッグオンドラグーンである。


 俺はカードを捲って行く。

 そしてサポートと書かれたピカピカ光る女の子のカードが現れる。


「よっしゃーーーーー10万円」

 と佐伯さん。


「絶対に売るの勿体無いって。俺にくれよ」


「何でお前にあげなアカンねん。殺すぞ」

 と佐伯さん。


「殺すぞ、って言われてるじゃん、俺」


「コレはワイのカードや。ワイのカードなんやで」


「それじゃあ他のカードはもらっていい?」

 と俺は尋ねた。


「チャンネル登録と高評価お願いします、って言えや。そしたらあげるがな」

 と佐伯さん。


 そんなのでカードをくれるの?

「チャンネル登録と高評価お願いします」


「やっぱり魔王君にカードをあげへん」

 と佐伯さん。


「嫌な奴じゃん」


「いいよ。他のカードはあげるよ」

 と佐伯さんが言った。


「やったーーー。一生大切にするね。ありがとう」

 と俺は言って、貰ったカードに頬をスリスリする。

 外のおもちゃはダンジョンでは希少なのだ。

「佐伯さんは本当に優しい。俺、佐伯さんのためなら何でもするわ」


「いや、そこまで喜ばれても……ワシ、10万のカード貰ってんねん」

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