第28話 やっぱり私は菌なんですわ

 紅パーティ達が去って行く。


「母親が早く家に帰って来てほしいみたいだから、急ごう」

 と俺は言った。


「魔王君、私達が家に遊びに行ってもいいの?」

 と佐伯さんが尋ねた。


「一応、家族ラインで報告してるぞ」

 と俺が言う。

 俺が初めて友達を連れて来るから両親は喜んでいる。


「ちょっと怖いですわね。他に兄弟はいませんの?」

 と姫子が尋ねた。


「妹だけ」と俺が言う。


「本当に本当? 家に行っても殺されたりしない?」

 と佐伯さん。


「殺されねぇーよ。俺がお前達を守る」


 姫子が俺に寄り添ってくる。

 カメラを持った風子が渋い顔をした。


「私はずっと魔王様に守られていたいですわ」


「イチャつきやがって」と佐伯さん。


「イチャついてねぇーよ。佐伯さんのことは誰よりも多めに守る。……多めに守るってなんだよ」


「私のことは守ってくれないのですか?」と姫子。「私は死ねばいいってことですか?」


「そんな事は言ってねぇーよ」

 と俺が言う。


「どっちつかずの態度は女の子を傷つけるんだからね」

 と佐伯さん。


 どっちつかずって姫子は守るなってことか?

「俺が守らなきゃあ姫子も死ぬだろう」と俺が言う。


 姫子が俺の体を触って来る。

「姫子、俺に近づくな」


「私は魔王様に近づいたらいけないんですか? 菌みたいな扱いをされているんですか? それはあまりにも悲しいですわ」

 と姫子が言って、地面を見つめた。


「いつ菌みたいな扱いをしたんだよ」

 と俺が言う。


「それじゃあ魔王様に触ってもよろしいですか?」


「よろしい訳がねぇーだろう」

 と俺が言う。


「やっぱり私は菌なんですわ」

 と姫子が泣きそうな顔をする。


「よろしいよ。触ってくれて結構だよ。姫子は菌じゃねぇーよ」

 と俺が言う。


「やっぱり、そうなんだ。やっぱりそうなんだ」

 と佐伯さんが言う。


「何がそうなんだよ?」

 と俺が言う。


「可愛い女の子にベタベタ触られて嬉しいんだ? ペッ」と佐伯さんがツバを出す。「だから魔王君はダメなんだよ」


「俺、佐伯さんにダメとか言われてるじゃん。やっぱり姫子、俺のこと触るなよ」


「私は菌なんですか?」


「もう魔王君なんて知らない」と佐伯さん。

 ほらほらほら、と彼女は言いながらケロベロスの真ん中の顔の顎を撫でている。

「君の主人はヤ○チン野郎だよ」

 左右の顔も佐伯さんに顎を撫でられたいようで、顔を押し付けていた。


「どうしたらいいんだよ? 姫子の姉ちゃん、カメラで撮影してないで、姫子をどうにかしろよ」


「……」


「無視してんじゃねぇーよ」

 と俺が言う。


「うわぁ〜、めっちゃ舐めてくるじゃん」

 と佐伯さんが言う。

 3つの犬の顔に彼女は舐められていた。


 きゃ、きゃ、と笑う佐伯さんが可愛い。つーか手に持っているスマホも舐められている。


「佐伯さん。スマホ」

 と俺が言う。


 佐伯さんが生配信用のスマホを俺に差し出す。

 カメラのところが舐められていて画面が汚れていた。

 俺はレンズを服で拭いて、楽しそうに戯れ合う佐伯さんを撮影した。

 トラックぐらいあるケロベロス。佐伯さんが食べられそうである。

 そういえばサブローが俺達家族以外に懐いているのを初めて見た。

 撮影している俺の後ろから姫子がギュッど抱きしめてきた。コイツはどうしたらいいんだろうか?


「先に進みましょう」

 と風子が言った。



 4人で歩いて進んでいたら家まで、すごい時間がかかるので彼女達をケロベロスに乗せることにした。

 3つの頭。

 それぞれに3人がしがみついている。

 真ん中が姫子。左が佐伯さん。右が風子。

 さすがに両手でサブローにしがみついとかなければ振り落とされるので、風子はカメラをしまった。

 俺は彼女達をスマホで撮影しながら隣を走った。

 魔物が現れると俺が一撃で倒して、一気に30階層まで降りた。



 30階層の休憩所でサブローを止めた。

 ケロベロスから彼女達を下ろす。

「うぇーーー」

「うぇーーー」

「うぇーーー」

 彼女達の顔は真っ青で気分が悪いようだった。


「大丈夫か?」

 と俺は尋ねた。


「大丈夫な訳ないでしょ」

 と風子がキレている。

「こんなに揺れて、安全性のない早い乗り物は初めてよ」


「ちょっと休憩しよう」

 と俺が言う。


 休憩所を開ける。

 祭壇のようのベッドが5つ。石で作られた机と椅子。フリーWiFiのパスワード。

 彼女達を石で作られたベッドに寝かせた。

「疲労回復の効果があるから少し寝たら気分が悪いのも無くなると思う」


「うぇーー」と佐伯さんが嗚咽で返事をする。


「みなさん、ちょっと休憩しますので配信を停止します」

 と佐伯さんがスマホに向かって言った。

 そして配信用のスマホを消した。

 佐伯さんはリュックから魔力充電器を取り出して、スマホを充電した。

 風子も真っ青な顔でカメラを充電していた。


 そして彼女達はベッドに横になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る