第27話 ケロベルス

「帰るわ」と井上が言い出した。


 ポクリ、と魔法のステッキを握った三宅が頷く。


 坂本は転がっていた。

 俺が魔法で水を出した時に流されてココまで来たんだだろう。

 彼は妹にやられたのだ。

 俺はしゃがみ込み、回復魔法を坂本にかけた。


「‥‥んっ」

 坂本が起きた。

 しばらく何が起きたかわからないようだった。

「魔法少女」

 と彼が言ってガバッと起き上がった。


「逃げろ。意外と魔法少女は強いぞ。姫子嬢は俺が守る」


「いや、それ終わったんだわ」と井上が言った。


「えっ、逃げ切ったの?」と坂本。


 井上が首を横に振る。


「そうか。記憶は無いが俺達が倒したんだな」


 井上が首を横に振る。


「気のせいか」


「なにが気のせいだと思ったんだよ」と井上が言った。


「魔法少女に出会ったこと」

 と坂本は答えた。


「いや、気のせいじゃない。あれはこの子の妹だったんだ」

 と井上が言って、俺を指差す。


「えっーーーーー」

 と坂本が驚く。


「魔王少女のお兄ちゃんってことは、魔法青年だったのか」

 と坂本。


「その発想はなかったな」と井上が呟いた。


「妹が攻撃して、すみませんでした」

 と俺が謝る。


「魔法少女ぐらい俺でも倒せた。少女を攻撃するのは、男としてダメだと思っただけ」

 と坂本が言う。


「俺達は帰ろうと思ってる」

 と井上が言った。


「姫子嬢はどうするんだ?」と坂本が尋ねた。


「私達は先に行きますわ」と姫子が言う。


「それじゃあ俺達が姫子嬢を守ってあげよう」


「結構です。魔王様がいますので」と姫子が言う。


「ダメだ。こんな何も装備していない学生に姫子嬢を守れる訳がない」と坂本。


「彼なら強いから大丈夫だって」と井上が言う。


「こんなチンピラ顔が強い訳ないだろう。絶対に見かけ倒しだよ」と坂本が言う。


「軽く俺の悪口言ってるな」と俺が呟く。


 その時、ガチャっと扉が開く音がした。

 20階層の大きな扉が開いた。

 3つ顔を持つワンちゃんが顔を出す。大きさはトラックぐらいあった。ケロベロスである。


「構えろ。ボス部屋からケロベロスが出て来たぞ」

 と坂本が緊張した声で叫んだ。


 ケロベロスがコチラに走って来る。

「クソ。このままじゃあ俺達が全滅してしまう」

 と坂本が喘いだ。


 ヨダレたっぷり垂らしたケロベロスのサブローが、俺を見つけて嬉しそうに尻尾をフリフリさせながら俺に近づいて来る。

 そして俺のことを舐めてきた。


「クッサ」と俺が言う。

 唾液が臭いのだ。


 俺はサブローの真ん中の頭を撫でる。

 すると左右の頭も撫でてくれ、と言わんばかりに俺に顔をこすりつけてくる。

 久しぶりにサブローに会った。


「このワンちゃんは魔王君のペット?」と佐伯さん。


「可愛いだろう」と俺が言う。


「おっかねぇ」と佐伯さん。


「ケ、ケロベロスが懐いている」と愕然と坂本が呟いた。


 サブローは嬉しさのあまり、嬉ションをした。嬉ションというのは嬉しさのあまり小便をしてしまうことである。

 ビッ、と発射されたサブローの小便が坂本にかかった。


「……帰る」と小便まみれの坂本が呟いた。

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