第26話 VS妹

 俺はコメント欄を読んで風子が配信していることに気づく。

 一旦、止まる。そして自分のスマホでキラキラ姫子のチャンネルを見た。

 冷や汗がじんわりと背中を流れた。

 魔法少女に憧れている妹が映し出されていたのだ。


 魔法少女に憧れた女の子。

 母親に魔道具を改造してもらって魔法少女のコスプレをしている。魔法少女全身コスプレは強い。

 彼女が着ているフリフリの黄色い服は防御力が異常に高い。

 魔法のステッキは魔力を増加させる。

 パンプスのような靴は素早さを上げる。

 小さいポーチは東京タワーぐらいなら入れることができる。

 頭についている花のような髪飾りは魅力をアップする。

 魔法少女のフル装備の妹。

 もしかしたら何も装備していない俺より強いかも。


 配信中の動画に見慣れた扉を見つけた。

 魔王家がペットとして飼っているサブローの部屋である。

 佐伯さん達はサブローの部屋の前にいた。

 俺は猛ダッシュで20階層まで降りて行く。



 怒涛のスピードで降りて行く。それでも遅いと思った。

 マリィが佐伯さん達に何をするかはわからん。

 20階層に辿り着いた時、どこから発生したか不明の地龍が佐伯さんを襲おうとしていた。

 

 ジャンプ。クルクルクル。ドン。

 かかと落としを地龍の頭に食らわせた。

 

 地龍の頭の骨がおせんべいのように砕けて倒れた。


「魔王君」

 と佐伯さんの声。

 

 地龍は2匹いる。


 もう1匹は姫子を襲いそうだった。


 ジャンプ。そしてパンチ。

 地龍の顔面が砕けて倒れた。


 姫子が放心状態でへたり込んだ。


 ぱちぱちぱち、と拍手をする音が聞こえた。


「にぃにぃの勝ちぃ」

 とマリィが言った


 浮遊している妹を俺は見上げた。


「マリィ」と俺は叫んだ。


 妹に対する怒りが腹の底から溢れ出す。

 コイツは悪ふざけで佐伯さん達を殺そうとしたのだ。


「にぃにぃが怒った。あっかんべー」

 妹が茶化すように舌を出す。


 俺は佐伯さんに生配信中のスマホを黙って渡した。

 佐伯さんは不安そうに俺を見ていた。


「ただの兄妹ケンカだ」

 と俺は言った。


「にぃにぃが好きなのは、そっちの女の人だよ」

 と妹が言う。

「にぃにぃは迷わずに、そっちの女の人を助けたもん。正解?」


 好きとかそんなんじゃねぇーよ。

 腹立つ。


「降りて来い」

 と俺は怒鳴った。


「やだーよ」


「いい加減にしろ。降りて来い」

 と俺は叫んだ。

 めちゃくちゃ腹が立っていた。


「やーだよ」


 チッ、と俺は舌打ちする。


「みんな私に力を貸して。出でよファイアボール」


 みんなって誰だよ、と思う。

 謎のセリフを口にして、強烈な火の玉を妹が出して来る。


 チッ、と俺は舌打ちをする。

 魔法は好きじゃない。

 だけど炎を打ち消すために、俺は手の平から水を出す。

 俺は魔法の加減ができない。水を手の平から出すと洪水のような水が溢れ出す。

 

 妹が出した火の玉を打ち消すと白い煙が立ち込めた。

 火の玉を打ち消しても俺の手から水が止まらん。

 そこらをビショビショにさせてしまった。

 なぜかはわからないけど後ろにいた佐伯さん達もビショビショになっていた。

 倒れていた坂本が、俺が出した水のせいで、どこかに流されてしまった。


「危ないから佐伯さん達は隠れてくれ」

 と俺が言う。


「魔法少女マリリンは決して悪を逃がさない」

 と妹が言う。


 マリィは完全に魔法少女になりきっている。そして俺達のことを悪だと勝手に認識している。魔王家でやる分にはいいけど佐伯さん達を巻き込んだら絶対に被害が出る。つーか死ぬ。


「マリィ」と俺が叫ぶ。

「ごっこ遊びで力は使うな」


「ごっこ遊びじゃないもん」

 とマリィが怒る。


「地上に帰れ。電撃ビリビリ」

 と妹が叫んだ。

 

 魔法が発動される前に俺はマリィに向かってジャンプする。

 そして彼女の胴体を蹴る。

 胴体を蹴ったのは服の防御力が高いからである。妹には怪我をさせたくない。


 蹴っ飛ばされた妹がズドーンと壁に向かって飛んで行く。

 そして壁にめり込む。


「なかなかやるわね」

 とマリィが不敵に笑った。

「アナタだけは絶対に許さない。この正義の名の下に」


「いいかげんにしろ」

 と俺は怒鳴った。

「みんなにごめんなさいしろ」


「イヤだ」

 と妹が怒鳴る。

「にぃにぃだけ遊んでてズルイ」


「俺がいつ遊んだんだよ?」


「ずっと配信見てたもん。ズルいズルい」


「ズルいじゃない。羨ましいだろう? 言葉を間違って使うな」

 と俺が言う。


「みんな私に力を貸して」

 とマリィが言った。


「みんなって誰だよ」

 と俺がツッコむ。


「ありがとうみんな。エネルギーが私の元に集まって来る」

 と妹が言った。


「集まってねぇーよ。もともとお前の持つ魔力だよ」


「にぃにぃうるさい」

 と妹は怒鳴って、鋭い目で俺を見る。


「悪は滅びろ。ファイア。サンダー。ファイア。ファイア。ファイアーー。サンダー。グラビデ」


 得意な魔法を連続する。

 俺が避けたら逃げている彼女達に当たるかもしれない。

 

 俺は体の周りに少年漫画のように光が覆った。魔力で体を覆っって防御力を上げたのだ。そして妹が放った一発目のファイアがやって来る。

 2発目。3発目。4発目。5発目。6発目。

 そして最後にグラビデ。

 俺ですら立ってられん。


「‥‥クソ」

 と俺は呟いた。

 出したくない奥の手があった。

 佐伯さん達は、まだ逃げきれていない。

 俺がマリィの魔法を避ければ、確実に彼女達が被害に合う。


「せっかくお菓子を買って来てあげたのに、こんな悪い子だったらあげれないな」

 と俺は言った。

 これが奥の手である。


「えっ?」


 魔法攻撃が止まった。


「にぃにぃなんて?」


「お菓子買って来てあげたけど、もう絶対に渡さない」

 と俺が言う。


「ガーン」

 と妹が膝をついて、落ち込んだ。


「今からみんなにごめんなさいして来い」


「わかった」

 とマリィが立ち上がり、宙を飛んで佐伯さん達の元へ行く。


 佐伯さん達からキャーーーーと悲鳴が聞こえた。

 

 俺も彼女達の元へ向かった。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 と妹がペコペコと謝っている。


「何に対してごめんなさいか言ってみろ」

 と俺が言う。


「殺そうとしてごめんなさい。殺した後に臓器をにぃにぃに差し出して驚かそうとしてごめんなさい」


「めっちゃ怖い事しようとしてんじゃん」

 と佐伯さんが驚いている。


「もう2度としねぇーか?」

 と俺が妹に尋ねた。


「しません。しません。しません。しません」


「兄ちゃんと契約しろ。兄ちゃんの連れを殺さないと」


「します。します。します」


 妹がポーチから契約書を取り出す。

 魔道具である。


「ペンは?」


「はい」

 と妹が言って、ポーチからペンを取り出して俺に渡した。


 契約内容を書き込む。 

 兄の連れに手を出さない。

 違反した場合は一生オヤツ抜き。


「嫌。一生オヤツ抜きは嫌」


「マリィのためにオヤツ買って来たのに契約しねぇーの?」

 と俺は尋ねる。


 ホッペをマリィが膨らませて、契約書にサインする。

 契約書が消える。

 契約を違反した場合は、本当にマリィは一生オヤツを食べることができないのだ。


「みんなすまねぇーな」

 と俺が言う。


「コイツが妹のマリィ」


「オヤツ」

 とマリィが言う。


「挨拶しろ」

 と俺が言う。


「さっきしたもん」


「もう一回しろ」


「魔法少女マリリンよろしくね」

 と妹がポーズをとる。


「ちゃんとしろ」


「魔王マリィです。いつも兄がお世話になっております。さきほどは大変失礼なことをして申し訳ありませんでした」


「ちゃんとしすぎだろう」と俺が言う。


「ちゃんとしろってにぃにぃが言ったんじゃん」


 俺はリュックからブラックサンダーを取り出す。

 一気に全部は渡さない。虫歯になってしまう。


「ありがとう」

 と妹が嬉しそうにブラックサンダーを手に取った。

「わ〜い。チョコだぁ」



 マリィがブラックサンダーの封を開ける。

 満面の笑顔でチョコレートに噛り付いた。


「おいしい」と妹が言った。


「お前は何しに来たんだよ?」

 と俺は尋ねた。


「お母さんが早く帰って来なさい、って怒ってたよ。毎日ご飯の用意してるんだからねって言ってたよ。あとね、ちゃんとミルクも取って来て、って言ってたよ」


 マリィは食べた後のゴミを俺に渡した。

 俺はゴミを握りしめてポケットにしまった。


「じゃあね。家で待ってるからね」

 と妹が言って、ダンジョンの地面にグラビデで穴を開けた。そして穴に入って去って行った。

 穴はすぐに消えてしまう。

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