第19話 キットカット

 彼女が持っているペンダントが誰の物か聞こうとした。


「アイテムゲットだぜ」と佐伯さんが満面の笑顔で言った。


 質問が俺の口から出ることはなかった。

 彼女は聞かれたくないんだろう、と何となく思ったからである。


「みんな悪いね。私がアイテムを貰っちゃって」と佐伯さんが言う。

「魔王君ごめんだけど、リュックの中に防具を入れといてくれない?」


「別にかまわないけど」

 と俺は言って防具をリュックにしまった。


「みなさま〜、夏はサマ〜、お腹空きませんか?」と佐伯さんが言う。


「俺、地龍を持ってるぞ。焼いて食べるか?」


「それはいらん」と佐伯さん。


「なんでだよ? 地龍は美味いぞ」

 と俺が言う。


「早くココから出ないといけないし、焼いてる時間なんてないでしょ」と佐伯さん。


「そうだな。俺は大丈夫だけど、お前達は消化される前に出ないといけないもんな」と俺が言った。


「消化されてるんかーい」

 と佐伯さんが言って、俺の首を絞める。


「防御魔法かけたから完全に消化されるまでには時間がかかる」

 と俺が言う。


「そういえば肌がヒリヒリしますわね」と姫子が言った。


「それじゃあ床をぶち抜いて進むか?」

 と俺は尋ねた。


「そんな近道があるんやったら先にぶちぬかんかい」と佐伯さん。


 配信のために殺戮建築に入ったのに、床をぶち抜いて進んだら面白いシーンは無くなると思うけど。

 それは俺が考える事じゃないんだろう。


「それじゃあ床をぶち抜くぞ」


「ちょ、ちょ、アイテムを独り占めさせてもらったお礼にキットカットどうぞ」

 と佐伯さんがリュックから、お菓子を取り出して姫子に渡す。


「これが私の気持ち」と佐伯さんが言って、風子にも渡す。


「キモいわね」と風子。


 俺も手を出した。


「アンタには無いよ」と佐伯さんが言う。

「貰えると思って手を出してんじゃないわよ」


「寂しい」と俺は言って、手を引っ込める。

 俺だけ貰えなかった。


「嘘。嘘。アンタには特別にコレをあげる」

 と佐伯さんは言って、俺の手に何かを握らせた。

「つまらない物だけど、貰ってくだせぇ。ほんの私の気持ちです」


 手を広げて、貰ったモノを見る。


「鼻をかんだティッシュだよ」

 と佐伯さんが言った。


「本当につまらない物だな」

 と俺は言って、丸まったティッシュを投げ捨てた。


「とれたての新鮮な鼻水だよ」

 と佐伯さんが言う。


「俺は鼻水に新鮮さを求めてねぇーんだよ」


 姫子と風子の2人がキットカットを食べていた。

 

「甘い物いいな」と俺は呟いた。

 ダンジョンには甘い物が少ない。

 だから外の甘い物は、それはそれは貴重だった。俺のリュックには妹のお土産に甘い物が大量に入っている。


「魔王様いりますか?」と姫子が尋ねた。


「いいのか?」と俺。


 姫子がキットカットを差し出した。

 パクっと姫子の口から佐伯さんが食べた。


「あぁぁぁあ俺のやつが」


「早いモノ勝ちなんだよ」と佐伯さんが言った。


 俺、凹む。


 それから俺は床をぶち抜いて、下に飛び降りた。人間に化けた魔物がいたので蹴り殺す。

 彼女達も飛び降りた。下から俺は彼女達を受け止めた。


 それを3回繰り返す。

 床下収納のような扉が現れる。

 その扉を開けると10階層だった。

 

 こんなとこ降りるの? 

 絶対に死にますわ、と彼女達は騒いでいた。

 

 床下収納のような扉を開けると10階層の地面までは20メートルぐらいあった。


「キットカット〜」と俺は言いながら、10階層の地面に飛び降りた。


 着地。

 そして上を見上げた。


 彼女達は俺のことを見下ろしていた。


「キットカット〜」

 と俺は叫んだ。


「キットカットを食べられた事がショックみたいですわね。キットカットしか喋れなくなってますわね」と姫子が言う。


「ツッコミが機能しなくなってる」

 と佐伯さん。


「飛び降りていいんですの?」と姫子が尋ねた。


「キットカット〜」と俺は答えた。


「キットカットは、もう持ってないのですか?」と姫子。


「持ってないよ。食べかけのチョコバーならあるけど」と佐伯さん。


「それを落としてくださいまし」


 佐伯さんがリュックから食べかけのチョコバーを落とす。

 

 地面に落とさないようにキャッチする。

 そして食べた。

 うめぇー。


「飛び降りて来い。俺がちゃんとキャッチしてやる」と俺は彼女達に言った。

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