第15話 殺戮建築

「なんじゃこれゃ」と佐伯さんが叫んだ。


 俺達の目の前には殺戮建築さつりくけんちく


「見た目はホーンデットマンションみたいですわね」と姫子が言った。


 ディズニーランドに建ってそうな建物である。


 建物の周りは堀になっている。

 入り口には橋がかけられていた。


「建物に擬態してる魔物なんだ」と俺が言う。「あの橋を渡った扉が魔物の口だぞ」


「もし中に入ったら、どこから出るんですか?」と姫子が尋ねた。


「肛門から出るに決まってるだろう」と俺が言う。


「姫子先生はバリバリウンコになるわけですね」と佐伯さん。


「私は行きません」と姫子。


「でも肛門は10階層に繋がってるぞ。近道じゃん」と俺が言う。


「ネットで調べたところによると」とカメラを持った風子が言う。「この建物に入った人は骨だけになって10階層で目撃されているらしい。間違えて入らないように」


「子どもの頃、よく遊んでたけどな」と俺が言う。

 中に入って暴れ回っていた。

 いくら暴れ回っても元に戻るのだ。


「通りで臭いと思ったてた。すでに魔王君はウンコの姿だったのか」


「えっ、俺。臭いの?」


「臭くないですわ」と姫子が言って、俺は安心する。


「防御魔法は使えないの?」と風子が尋ねた。


「使えるぞ」と俺が言う。


「防御魔法をかけてもらって殺戮建築の中に入ろう」

 とカメラを握りしめた風子が言う。


「嫌ですわ」と姫子が言った。


「絶対に視聴者は見たいはず」と強い意志で風子が言った。


 風子もバズらないと死ぬ人なのか。


 姫子は悩みながら歯を食いしばった。


「なにかあったら俺が助けてやるよ」


 姫子が俺を見る。

「喜んで行きますわ」


「なんか胸がモヤモヤする」と佐伯さん。

「なんだったら苦しくて息ができまへん。どげんしよ?」


「気のせいですわ」と姫子が言う。


「な〜んだ。気のせいか。魔王君を奪われる気がして胸が苦しくなってると思ったわ。乙女が発動したと思ってびびっちまったよ。気のせいでよかった」


「変な間違いするなよな」と俺が言う。


「テヘペロ」と佐伯さんが舌を出す。


「佐伯さんも行きますの?」と姫子が尋ねた。


「もちのろんでござーる。私も動画を撮影するなりよ。これは生配信用じゃないからルールとしてはOKのはず?」

 佐伯さんが風子を見る。


 OK、という意味で風子が指で輪っかを作った。

 動画を投稿する分には、姫子の生配信中でも撮影の許可がおりた。


「バズるぜよ。バズりまくるぜよ」と佐伯さんが言って、リュックからカメラを取り出した。


「それじゃあ1人づつ防御魔法かけるぞ」

 と俺が言った。


「それじゃあ姫子、手を出してくれるか?」と俺が言う。


 俺は魔法が苦手なので、人に魔法をかける時は触れなくてはいけない。


 俺は姫子の手を握った。


 防御魔法をかける。

 繋いだ手が青く光る。


「なにか手から注がれている感じがしますわ」


「こんな場所でアイドル配信者に変なモノを注ぐな」と佐伯さんは言って、俺の頭を叩く。


「変なモノじゃねぇーよ。俺の魔力を注いで防御力を強化してんだよ」


「ものすごく優しい物が注がれてますわ」と姫子が言う。


「うぬぅー。なんか胸がモヤモヤする」


「それじゃあ次は佐伯さん」と俺が言う。


「姫子先生より、いっぱい私の中に注いで」

 と佐伯さん。


「なんかイヤらしい意味に聞こえるだろう。そんな言い方やめろよ」


 俺は佐伯さんの手を握った。

「オーイエス」

 と彼女が叫んだ。


「変な声を出すな」と俺が言う。


 魔力を佐伯さんに注ぐ。

 手が青く光る。


「もっと私の中に温かいモノをぶち込んで」と佐伯さん。


「マジでキモいからやめてくれ」


 防御魔法をかけ終わる。

 俺は手を離した。


「魔王君のアレが私の中にいっぱい入ってきた」


「私はさっさと終わらして」と風子が言って、手を差し出した。


 3人に防御魔法をかけて、俺達は殺戮建築の中に入って行く。

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