第8話 友達になってくれないか?

 俺達は浴衣に着替えた。

 そしてご飯がやってきた。


 部屋まで案内してくれた中居さんが食事の説明をしてくれる。

 ミノタウルスのステーキに魚人の刺身。それに殺戮ガニのお味噌。ごはんはコシヒカリ。

 佐伯さんはダンジョンカメラで料理を撮影している。

 そして中居さんが部屋から出て行った。


「もっとマシな料理は無いの?」

 と佐伯さん。


「佐伯さんはステーキとか刺身とか嫌いなのか?」

 と俺は尋ねた。


「ミノタウルスのステーキだよ」


「普通じゃん」と俺が言う。


「これだからダンジョン育ちは。私にとっては普通じゃないの」


「そうなのか」と俺は言いながらステーキを頬張った。

 ミノタウルスは筋肉質で歯応えがあって、噛めば噛むほど旨み成分が口の中に広がった。


「うめぇー」


 肉の味が残った状態のまま白ご飯を食べる。お米の甘味がプラスされて、肉の美味しさが際立つ。


 そして次は魚人。

 脂が乗った白身魚である。

 醤油とワサビをつけて口に入れる。

 甘い魚人の油が口に広がった。

 噛まなくても口の中で溶けていく。

 口から消えるのを追いかけるようにお米を入れた。


「うまっ」


 殺戮ガニが入ったお味噌を飲む。いい出汁が出ている。

 ご飯をかきこむ。


「美味しそうに食べるじゃん」

 と佐伯さん。


 美味しいぞ、と俺が言う。

「ちょっとカメラ持って」と佐伯さんに言われて撮影する。

 そして彼女がミノタウルスのステーキを食べた。

「ドカシャーン。ガビーン。ビロビロビーン。美味しい」


「効果音がオカシイ」


 俺達がご飯を平らげて、しばらくすると中居さんがまたやって来て食器を片付けてくれた。

 中居さんが食器を片付け終わった後に、ニコニコしながら告げた。

「お布団もひきますね」


「……」

「……」


 襖を開けて布団を2つ取り出す。

 そして中居さんは綺麗なシーツを取り付けた。

 ふんわりとした掛け布団。

 そばがらの枕。

 くっ付けて2つの布団を中居さんがひいた。

 そして彼女は部屋から出て行った。


「……」

「……」


 気まずい。

 こうなると思ったから野宿を推奨したのだ。


「……初めてだから優しくしてね」

 と佐伯さんが言った。


 俺は唾を吹き出した。

 身体中が熱い。


「冗談だからね」

 と佐伯さんが顔を真っ赤にして言った。

 そして彼女はくっ付いていた布団を離した。


「こんなタイミングでしょーもない冗談を言うな」

 と俺が言う。


「私は今から動画の編集しないといけないし」

 佐伯さんが言って、リュックから薄いノートパソコンを取り出した。りんごの絵が描かれているパソコンである。


 彼女は隅に追いやられた卓袱台にノートパソコンを置いた。そしてダンジョンカメラとパソコンを接続した。


「なにしてんの?」


「今日撮影した分の動画をパソコンに移してんの」


 それから彼女はノートパソコンにイヤホンを差し込み、編集作業を始めた。


 俺は何もする事がなくて布団に横になる。

 そして彼女の作業を見た。

 あんなにフザケていた佐伯さんが、真剣にパソコンと向き合っている。

 

 いつも9時には寝ているので俺は眠たくなって目を瞑った。

 夜中に目覚めると彼女は、まだ編集作業をしていた。


「寝ないの?」

 と俺は尋ねた。


 佐伯さんが、コチラを見る。


「うん。もう少しだけ」

 と彼女が言う。


 また俺は眠りにつく。

 トイレに行きたくなって、また起きた時も彼女は編集作業をしていた。

 ずっと彼女はパソコンに向き合っている。母親が夜なべしてセーターを作っている時の表情だった。

 本気なんだな、と俺は思った。


 6時に目覚めた時に隣の布団に佐伯さんが眠っていた。

 佐伯さんの寝顔を見る。

 綺麗な顔だった。

 黙っていれば絶世の美少女である。


 俺は布団から手を伸ばして、彼女の頬に触れた。

 手を伸ばせば触れ合える距離に佐伯さんがいる。


「友達になってくれないか?」

 と俺は尋ねた。


 佐伯さんは眠っている。

 昨日は夜中まで作業をしていたみだいだから、もう少しだけ寝かせてあげよう。

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