第7話 チャンネル登録よろしくね。動画が面白かった人はイイネを押してね

 質問コーナー終了と同時に配信も終わった。

 俺は湯船から出た。パンツはビショビショである。

 佐伯さんは三脚に設置していたスマホを取って、また湯船の中に入っている。 

 配信が終わったはずなのに、佐伯さんは露天風呂に浸かりながら俺にスマホのカメラを向けた。

 俺は脱衣所で体を拭く。脱衣所と風呂場には何の隔たりもない。


「制服に着替えてよ。撮影したい動画があるから」と彼女が言う。 


「撮影したい動画? つーか今は撮るなよ」

 と俺が言う。


「動画の終わりにチャンネル登録よろしくね、って動画を差し込みたいんだよ。その動画を撮るから」

 と彼女が言う。


「わかった」と俺。


「その濡れたおパンティーはどうするんだい?」

 と佐伯さんが尋ねてくる。


「脱ぎてぇーんだよ。でも佐伯さんが撮ってるから脱げねぇーんだよ。こっち見るなよ。撮るなよ」


 それでも彼女はカメラを俺に向け続けた。

 仕方がないのでタオルを巻いてパンツを脱ぐ。

 俺は脱衣所を出て、部屋に戻った。

 部屋と露天風呂には何も隔たりがない。

 隔たりを作るために俺は襖を閉めようとした。

 その時、ハラリとタオルが落ちた。


「キャーーーー。変態」

 と佐伯さんが叫んだ。


 俺は慌てて襖を閉めた。

 男の大切な部分を見られてしまった。それに動画も撮られてしまった。

 俺は制服に着替えて、部屋の端っこで三角座りをして凹んだ。


 しばらくすると襖の向こうからドライヤーの音が聞こえて、その音が鳴り止むと彼女が制服に着替えて現れた。

 佐伯さんから湯気が出ている。

 それに髪も少し濡れていた。


「なに凹んでるの? 別にいいじゃん。裸ぐらい。生配信中じゃなくてよかったね」


「動画は消してくれ」


「消した消した」


「本当?」と俺は尋ねた。


「私が嘘ついたことがある?」


「嘘つくかどうか付き合いが浅くてわからん」


「私は嘘をつくタイプだよ。バズると思えば何でも晒すタイプだよ。でも動画は消した」


「信用できねぇーセリフを言うんじゃねぇーよ」


「大丈夫。信用して」


「本当に頼む。チ○コなんて晒されたら結婚できない」


「そしたら私が結婚してあげる」

 彼女が言う。


「マジでチ○コ晒したら、結婚してくれよ」

 男性の大切なモノを晒したら結婚相手は見つからないだろう。

 佐伯さんが結婚してくれると言うなら結婚するしかない。

 

「……私でいいの?」


「晒されたらお前しかいねぇーだろう」


「わかった晒す」


「晒すんじゃねぇーよ」


「大丈夫。ちゃんとモザイク処理もするから」


 俺、めっちゃ凹む。


「嘘。嘘。玉の輿チャンスだと思ったけど、さっきの動画消しちゃったもん」


「本当?」


「私が本当のことを言ったことがあると思うか?」


「付き合いが短いからわかんねぇーだよ」


「本当に消したって。私を信じて」


「消してくれていたらいいんだ」

 と俺が言う。

 

 ニヤッと佐伯さんが笑った。




「それじゃあ私が言うセリフを言ってくだちぃ」


 俺と佐伯さんは部屋の中で横並びに立っていた。

 三脚に設置したカメラのレンズが俺達に向いている。

 動画が終わった後に差し込むための動画を撮影するらしい。


「チャンネル登録よろしくね。動画が面白かった人はイイネを押してね」


 なんか恥ずかしいセリフ。

 配信動画の終わりに聞くセリフである。


「はい。練習練習。早く言って」


「チャンネル登録よろし……」


「全然言い方が違う」

 と佐伯が俺の頬をビンタ。


「言い方もクソもねぇだろう」と俺が言う。


「そんなんじゃチャンネル登録もしてくれないし、イイネも押してくれないよ」


「わかった」

 と俺は頷く。

 もっと優しい感じを出したらいいんだろうか?


「チャンネルと……」


「全然違う」

 と佐伯さんが俺の頬をビンタ。


 ビンタせずに普通に止めることはできないのか?


「私のヤツをもう一回、鼻をほじってちゃんと聞いて」


「耳をほじって、じゃねぇのか?」


「口答えをするな」と佐伯さんが俺の頬をビンタ。「教えられてる身分で」


「すまねぇ」と俺が言う。 


「素直な部分は良いところよ。後でドックフードあげるわ」


「俺のこと犬だと思ってるのか」


「口答えするな」と佐伯さんが俺の頬をビンタ。「何度も言わせるな」


「すまねぇ」


「それじゃあ、言うよ」


「はい」と俺は頷く。


「チャンネルトウロクヨロシクネ↑ イイネボタン、オス、ワタシ、ウレシイ」

 と佐伯さん。

 めっちゃ訛ってる。

 海外の人が覚えたての日本語で一生懸命伝えている感じだった。

 ただ一生懸命さは伝わる。

 これならチャンネル登録もしてくれるし、評価もしてくれるかもしれない。


「言ってごらん」

 と佐伯さんが言う。


「チャンネルトウロクヨロシクネ↑ イイネボタン、オス」


「馬鹿野郎」と佐伯さんが俺の頬をビンタする。


「訛ってたら、そっちの方が気になって話が入って来んわ」


「佐伯さんの真似しただけじゃん」


「人のせいにするな」と佐伯さんから、またビンタ。


「もう一回だけ私がするから、ちゃんと見とけ」


「はい」と俺が頷く。


「チャンネル登録ヨロシクね。チャンネル登録しない奴はブチ殺してやるよ。動画が面白くなくてもイイネは押せよな。押さないとブチ殺すぞ」

 

「そんなんじゃチャンネル登録者してくれないんじゃ……」

 と俺が言う。


「馬鹿野郎。今の時代配信者も厳しいんじゃ。脅しでもしない限り登録なんてしてくれんのじゃ」


「……わかった。佐伯さんがそこまで言うんなら、俺頑張ってみるよ」


「よし、やれ」と佐伯さん。


 俺はポクリと頷く。


「チャンネル登録ヨロシクね。チャンネル登録しない奴はブチ殺すぞ」と俺が言う。


「もっともっと視聴者をビビらして」


「お前の顔と名前はすでにわかっている。チャンネル登録しない奴は明日まで命は無いと思え」


「いい。凄くいい。そこで高笑いお願い」

 と佐伯さんが隣で指示を出してくる。


「ガハハハ」と俺は笑った。


「いいね。聖飢魔II《せいきまつ》みたい」と佐伯さん。


我輩わがはいのためにイイネボタンを押せ。押さないとブチ殺すぞ」

 と俺は言った。


「もっと脅し文句ちょーだい」


「押さない奴は3秒後に死ぬ」

 と俺は言った。


「カット。最高」

 と彼女が言った。


「ありがとう」と俺が言う。


「それじゃあ2人で声を合わせて普通に言おうか」と佐伯さんが言った。

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