第3話 レベル999999の木の棒

「うわぁ〜、動画で見てるよりも結構広いんだね」

 と佐伯さんが言った。


 ダンジョンの入り口は鍾乳洞みたいになっている。

 受付では行列が出来ていたけど中に入ると人が気にならないぐらいに広い。

 ダンジョンの壁は光石こうせきが含まれていて、どれだけ奥深くに進んでも明るい。


「いつか私ココでライブするんだ」


「ダンジョンは武道館じゃねぇーぞ」

 と俺が言う。

「それにダンジョンの入り口でライブなんてするんじゃねぇーぞ。邪魔で仕方がねぇーだろう」


「ツッコミますな。私の弱ボケでもツッコんできますな」

 と彼女が嬉しそうに言った。


 ツッコミたくてツッコんでいるんじゃない。

 ツッコまされているのだ。


「そろそろボス戦か?」


「……」

 無視することに決めた。

 弱ボケどころか、入り口でボス戦とほざいてる奴と関わりたくねぇー。


「魔力砲」

 とある未来から来たロボットの真似をして彼女が言った。

 武器は持って来ていない、と言っていたけど、ちゃんと武器は持って来ているらしい。

 魔力砲とは自分の魔力を消費して攻撃することができる代物である。

 筒状で手にパコッとはめる形状である。

 片手にはカメラ。片手には魔力砲。


「動くな。動くと撃つぞ」

 と彼女が言う。


「……」


「バン」

 と彼女が口に出して言った。


 青い色の魔力弾が本当に発射されて俺の顔面にぶつかった。

 俺には彼女の魔力弾は効かない。頬を撫でられたようなもんだった。


「あっ、ごめん。本当に撃っちゃった。ごめんごめんごめん。死んだ?」


「こんなことで死なねぇーよ。人に魔力弾を撃ってんじゃねぇー」


「本当に撃つ気はなかったんだよ。私は誤発して人を殺してしまうタイプだとわかったわ。今後、魔力砲を使うのはやめときます。うわぁ、今のでもう魔力0だし」

 と彼女が、スマートウォッチを見て言った。


 スマートウォッチにはステータスを表示させる機能があるらしい。俺は使ったことがないけど。


「行くぞ」

 と俺が言う。


「ちょっと待ってよ」

 と彼女が俺の後ろを付いて来る。


 そして分かれ道。

 大人数の探索者が左の道を通っている。

 左の道は魔物が少ない。

 俺は人の少ない右の道を通った。


「道こっちであってるの? みんな向こうの道に行きますぜ親分」

 と佐伯さんが言う。


「こっちの方が人が少ねぇーだろう。どの道を辿っても5階層にはちゃんと辿り着くから心配ねぇーよ」

 と俺が言う。


 向かいから柴犬サイズの大きなネズミが現れた。

「うわぁー、人殺しネズミじゃん」

「魔力砲」

「もう魔力ございません」

「ドラ○もん、助けて」

 と佐伯さんが1人でパニクっている。


「俺、ドラ○もんじゃねぇーし。それにネズミごときでビビってんじゃねぇーよ」

 俺はネズミを木の棒で叩いた。


 血肉が散る。


「おえぇーーーーー。グロテスク。おえぇーーー。さすがレベル99999の木の棒だわ。でも、もっと優しく殺してよ」


「もう木の棒、折れたわ」

 と俺が言って、棒を捨てる。


「ちょっと待ってよ。ネズミから出た魔石を取ってよ」


「そんなん置いてたらいいじゃん」


「バカ言ってんじゃないよ。小さい魔石でも2千円以上で売れるんだよ。2千円って言えば私の家の1日の食費よ。それに魔力砲も使えるし」


「それじゃあ自分で取ればいいだろう?」


「それがグロテスクなんだよ。困ったねぇ〜。困りましたよ。早くしないとダンジョンに吸収されてしまうよ。困ったねぇ〜。困りましたよ」


 俺はネズミの飛び散った血肉から魔石を取り出した。

 人差し指と親指に血が付いた。

 ポケットからハンカチを取り出し、ビー玉サイズの魔石と一緒にハンカチで拭いてあげた。


「ほらよ」

 と俺は言って、赤くて小さい魔石を彼女に差し出す。


「あっざーーーーーす。今後もよろしくお願いします」

「っていうか、男なのにハンカチを持っているタイプなんだね」


「ハンカチぐらい持つわ」と俺が言う。


「アゴ男からハンカチ王子にあだ名変更だね」


「そもそもアゴ男って呼ばれてねぇーし」

 と俺は言う。


 そしてまたネズミが現れる。

 蹴る。血肉が飛び散る。

「グロテスク」と彼女が叫ぶ。

 魔石を拾って彼女に渡す。

「あざーーっす」


 そしてまたネズミが現れて、の繰り返し。

 4階層ぐらいで彼女は叫んだ。

「魔石って何でこんなに重たいんだよ。魔石の馬鹿野郎」


「だから置いて行ったらいいじゃん、って言っただろう」


「だって買取価格2千円だよ?」


「置いていけよ」


 彼女が悲しい顔をする。


「優しい人がいたら持ってくれると思うんだけどなぁーー」


「ココに、そんな優しい人はいねぇーよ」

 と俺が言う。

 持つのは別にかまわないけど、わざわざ雑魚の魔石を回収するのが手間だった。だからココでネズミの魔石を断念させたかった。


「100個ぐらいあるんだよ? 20万円分もあるんだよ? それを置いてけって?」


「魔力砲で使う分だけ残して後は置いていきなさい」

 と俺は言った。


 基本的に魔道具には魔石を入れることができる。

 人間の魔力が少ないから魔石で補っている。


「……そんな薄情な」


 うえぇーん、うえぇーん、と泣き真似をしながら彼女は集めた魔石を置いた。


 そして何とか5階まで辿り着いた。

 本来、俺が1人で実家まで帰れば、この時点で家に辿り付いていたと思う。

 だけど10分の1しか進んでいなかった。




 □□□□□□□□□


【バズらにゃ死ぬでお馴染み佐伯の探索チャンネル、配信中のコメント欄】


『あのネズミってコラ○タの進化系じゃねぇ?』


『他のダンジョンでは深層に出るやつ』


『ラストダンジョン、っぱねぇー』


『一撃!!!! マジ何者?』


『木の棒のレベルが99999999999なだけだし』


『レベル999999999999の木の棒速攻で捨ててるし」


『グロッ』


『アゴ男!』


『アゴなんて出てまへんけど』


『ハンカチ王子』


『魔王く〜ん』


『今調べたら殺人ネズミ様の魔石1万円』


『深層に住んでるって、コイツこそラスボスでは?』


『2人って付き合ってるんですか?』


『怪我したら、即結婚らしい』


『なんじゃそれ?』


『キラキラ姫子もラストダンジョンの配信中でっせ〜』


『前のコメントの人へ。別の配信者の宣伝をするな』


『キラキラ姫子とコラボできたら、もっと伸びるチャンネルなのに』


『登録者数が全然違うから絶対に断られる』


『貧乏のくせに100万分ぐらいの魔石捨ててるし。俺にくれ〜』


『俺にくれ。俺にくれ。俺にくれ。俺にくれ。俺にくれ』


『スーを差し上げます』


『そんなんいらん』


『俺の佐伯さんは絶対に譲らん。お前がラスボスでもな』


『この女、相変わらず、狂ってるなwwww』

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