第22話 産後2年半、対峙
「久仁持さん、お待たせしました。こちらへどうぞ」
滝川弁護士に声をかけられ、緊張感が高まる。ついに博人の不倫相手3人と対面する日がやってきた。当初の予定であれば、不倫相手3人だけでなく、博人も合わせて4人を一度に集めて話をするつもりだった。しかし、内容証明の返信が締め切りギリギリで、かつ今日も直前で仕事を理由に欠席を連絡してきた。不倫相手の中に博人の同僚がいるので、本当かどうかは確かめればいい。
「ふぅ……はい」
緊張のあまり始まる前から折れそうになる気持ちを奮い立たせ、滝川弁護士の後に続く。
「ご主人が来ないことは、すでに説明してある。同僚の方が騒いでいないことから、ご主人の仕事は本当なのだろう」
「……わかりました」
会議室と書かれたのドアの前で滝山弁護士が立ち止まる。しかし、なかなか入ろうとしないことに疑問を感じ、顔を上げる。
「久仁持さんが気に病む必要はない。彼女たちがしでかしたことの責任をとってもらう場です。ぜひ顔をあげてください」
わたしと目が合った滝川弁護士は、自信に満ち溢れた笑顔を見せる。その顔を見ていると、なんとかなるような気がしてくるから不思議だ。
「そうですね。好き勝手やらせるのも今日でおしまいにします。まずは彼女たちから取るものきっちり取りましょう」
滝川弁護士につられるように、わたしの口角が上がってくるのを感じた。今日の目的は慰謝料をきっちり支払うと言わせること。減額はもちろん、不倫してないなんて言わせない。それに、基本的に滝川弁護士が話すのだ。わたしが緊張しすぎてもいいことなんてない。
「よい、良い表情だ。では、行きますよ」
滝山弁護士はわたしの表情を見て一つ頷くと、会議室のドアを開けて中に入る。わたしも滝山弁護士に続いて会議室に入る。会議室に入った途端、3名の女性から敵意剥き出しの視線を浴びせかけられた。しかし、そんな視線に怯んでなどいられない。わたしは上がった口角を維持するよう心がけつつ、滝川弁護士の隣に立つ。
「ご存知の方もいると思うが、こちらが久仁持 京子さん。みなさんのご希望により、同席いただく。久仁持さん、どうぞお座りください」
滝山弁護士の紹介を受け、わたしは3名それぞれと目を合わせてからイスに座る。一番歳の若い女性、博人が担当していた取引先の社員である
改めて滝山弁護士からそれぞれを紹介されるも、3名は示し合わせたように誰1人として頭を下げない。内容証明を送られているというのに、彼女たちに罪悪感はないんだろうか。わたしの疑問はさておき、さっそく滝山弁護士が事実確認を始める。調査会社の
「なによ、これ!?こんな写真があるなんて聞いてないわよ!」
博人と腕を組んでラブホテルから出てきた写真をバンバンと手のひらで叩く。
「聞いてないと言われても、内容証明に不貞行為の証拠がある旨を記載していたと思うが?」
滝川弁護士がため息をつかんばかりに問いかける。
「……これで証拠はないわよね!ふふっ……あははははっ!」
高笑いする
「……悦に入っているところ悪いが、自分たちが何回ラブホテルに行ってると思っているんだ?現像済みの写真はいくらでもある。それに、ここにある写真を全部破いても、然るべきところに置いてあるネガからいくらでも現像できる。他に言いたいことは?」
滝川弁護士は封筒から写真を取り出し、
「ぐっ……」
「以上のことから、3名それぞれとの不貞行為があったとして、慰謝料を請求する。あなたたちとの不貞行為により、久仁持 京子さんは離婚する決意をした。そのため、慰謝料の金額は1名あたり100万円とする。これは相場から大きく離れていない」
「……げ、減額」
「慰謝料の、減額を求めます。わたしが不倫関係になる前から、夫婦関係は破綻していたと聞いている。先に夫婦関係が破綻しているのだから、離婚するのはわたしのせいじゃないわ」
話しているうちに気が強くなってきたのか、再び敵意を込めた視線をわたしに向けてきた。
「1年以上前から、あなたたちの不貞行為があったことを確認している。期間の長さを踏まえての100万円だ。もし、減額を望むというのであれば、こちらとしては裁判としてもよい。
わたしが口を開く前に、滝川弁護士が写真のすみに印刷された年月日の数字を指差しながら回答する。
「え、うそ……」
「
「……いえ、博人さんとの不倫を認めます」
無言を貫いていた
全員が不倫を認めた形となったので、今日の話し合いの目的は達成したと言ってもいいだろう。
残りは、博人だけ。離婚届に署名、押印をさせること。そして、慰謝料200万円と紗智が大学卒業する見込みの22歳まで月8万円の養育費を認めさせること。もう博人に振り回されるのは終わりにしよう。
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