第21話 産後2年半、準備

「久仁持さん、お待たせいたしました」


 前回の相談から2週間ほど経ったのち、わたしは滝山弁護士がいる弁護士事務所を訪れていた。相談のための個室に案内される。約束の時間を数分過ぎたところで、滝山弁護士が入ってきた。


「いえいえ、こちらの都合に合わせていただき、ありがとうございます」


 平日の昼休みという時間でお願いし、快諾してくれた滝山弁護士には感謝しかない。これまでのバタバタの中、有給休暇を取得しすぎて上司や同僚から睨まれているのだ。しばらくはあまり休めない。


「お時間がないと思うので、早速本題に入らせていただく。旦那さん、および不貞行為をされた相手方に内容証明をお送りしたところ。不貞行為をされた相手の方は全員からは連絡があった。不貞行為を否定されている方が1名、慰謝料の減額を求められている方が2名。旦那さんからは今朝の時点で連絡がない」


「なんか、すみません」


「いえいえ。連絡のない旦那さんは期日まで置いといて、先に不貞行為をされた方を片付けてしまおう。損害賠償請求を行なって司法機関の手続きをする、ということもできるが、こちらは大変時間がかかるので、最後の手段と思ってほしい。不貞行為の証拠を握っているため、まずは直接請求をする形としたいと思う。当方で場を設けさせていただくので、久仁持さまにご同席いただきたい」


 滝山弁護士の言葉に、わたしは言葉がつまる。どちらから声をかけたかはわからないが、彼女たちが夫と親密にならなければ、こんな状況になっていなかったのではないか。同じ女性ではあるが、既婚者と親密になる彼女たちの行動が理解できない、理解できない彼女たちと会って、自分がどう振る舞うかがわからなくて怖い。


「えっと、博人の不倫相手と会ったほうがいいんですか」


「ええ。久仁持さまに負担をおかけすることになるが、これまでの経験上、被害者として顔を合わされたほうがその後の手続きがうまくいくことが多い。慰謝料の振り込みが早くなる傾向もある」


 一応、わたしの稼ぎだけで紗智と暮らしていくことはできる計算ではある。だけど、生活はできても、今後かかってくる学費を考えると厳しいと思う。なので、お金はないよりあったほうがいいのは確かだ。


「滝山弁護士も同席いただけるんですよね。でしたら、わたし会います」


「ありがとうございます。私の名前で招集するから同席するので、安心してほしい」


 滝山弁護士の言葉に、知らず知らずのうちに力の入っていた肩からどっと力が抜けるのがわかった。博人の不倫相手と対面することを考えただけで緊張していたようだ。


 それからわたしと滝山弁護士は、不倫相手と対面するための日程や準備について会話をしていった。不貞行為の証拠については、後日コピーを持参することを合意したところで今日の面談時間は終わり。次の面談日時を決めて、弁護士事務所を後にした。


「ふぅ……紗智と安心した生活までもうちょっとね」


 わたしは気持ちを入れ替え、紗智との生活の糧のため仕事に戻った。

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