第13話 産後2年半、別居
母の協力のおかげで、なんとか荷物を梱包することができた。
夫にバレないよう細心の注意を払い、必死に貯めた貯金。その中から初期費用を捻出して、新しい家を契約。
引っ越し業者に話をして、こちらが指定した荷物だけを運ぶことで合意してもらった。
このとき、あまりにもバタバタしていたせいで、肝心の紗智との対話をおろそかにしてしまった。毎日、保育園に送り迎えをしているし、朝晩の食事も一緒に摂っている。話す時間はいくらでも作れたはずなのだ。それなのに、紗智と話さなかったことは悔やんでも悔やみきれない。
だが、こんなにも悔やむことになるとは、このときのわたしは想像すらできなかった。
未来の後悔を生んだ引っ越し当日。紗智を保育園に送ったあと、家に戻って引っ越し業者を迎え入れる。そして、積み込む荷物を指定する。日用品やわたしと紗智の服、冷蔵庫以外の白物家電を積み込んでもらった。
荷物の積み込みを見届けたら、急いで新居へ向かう。
「えっと、引っ越しが終わったら役所に行って住所変更の手続きと、保育園に提出する変更届を出すのよね。あ、会社にも住所変更しなきゃ」
新居へ向かいながらこのあとやることを口に出して確認する。
新居への荷物を入れてもらい、必要最低限の荷解きをする。紗智を連れて帰れる最低限を整えてから、確認したとおりに役所に行く。戸籍課で住所変更の手続きを行い、その足で保育園の家族情報変更届を出す。
「あ、お迎えいかなきゃ」
役所での手続きを終えたところで、お迎えに行く時間になっていたことに気づく。役所から保育園に行って、紗智を迎え入れる。
「紗智、おかえり」
「ただいま!せんせー、さよなら!」
紗智を連れ、新しい家へと向かう。
「かいものいく?」
今までの家に帰る道とは違う道を通っていると、紗智から疑問の声が上がる。
「あ、ごめんね。紗智にちゃんと言ってなかったんだけど、今日から新しいお家だよ」
「あたらしい、おうち?」
「そうよ。前より保育園に近くなったからね」
「そかー」
紗智と会話をしながら歩いていると、新しい家に着く。
最低限の荷解きで紗智の荷物を広げておいたおかげか、紗智の戸惑いは少ないように見えた。
「ここが新しいお家よ。お母さんはもうちょっと荷物を開けてから晩ご飯の用意をするね」
「うん!」
紗智が今まで通りに遊べているのを見届け、わたしは荷解きにとりかかる。料理や翌日の準備ができたところで、晩ご飯の用意を始めた。
紗智と2人で晩ご飯を食べ、お風呂に入ってから紗智の寝かしつけ。新しい家に移った初日は特に問題なく過ごすことができた。そのことに安心したのか、わたしは紗智と一緒に眠ってしまった。
翌朝、スマホを見ると夫から大量の着信があった。疲れと安心からぐっすり眠っていたので、まったく気づくことはなかったのだが。
「おとーさんいないよ?」
「あ……そう、そうなの。お父さんはいないの。これからは紗智とお母さんの2人で暮らそうね」
「……そかー」
しょんぼりした雰囲気を出す紗智に朝ご飯を食べさせ、保育園へと送って行く。保育園に行く道すがら、元気になった紗智に安心して、わたしは仕事に向かった。
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