第37話 両家顔合わせ
家を出た直後は連絡がなかったが、数日してから毎時のように会いたい、話したいと連絡をしてくる真央。ちゃんも仕事してるのかと思うも、無関係だと思い直す。
不倫相手にダメージを与えてから真央と決着をつけようと思っていたが、慰謝料の支払い予定日まで時間ができた。予定を変更し、先に真央と決着をつけることにした。
「信吾、おかえりなさい!わたし、ずっと待ってたのよ」
持っていた鍵を使い玄関のドアを開けた途端、家の中から真央が飛び出してきた。抱きつこうとした真央をやんわりと退ける。
「何度も連絡をくれたからね。改めてちゃんと話し合おうと思ったんだ」
かけらも思っていないことを口にしながら家の中に入る。ざっと見回す限り、カメラは取り外されていない。キッチンやリビングのカメラもある。さすがに今は寝室に確認しに行かないが、この調子だと寝室のカメラもそのままだろう。
「ふふっ」
何を勘違いしているのかわからないが、真央は嬉しそうに笑う。
僕は持ってきたカバンから小型プロジェクターを取り出し、テレビ横の白い壁に映像が映るよう設置する。
「なにしてるの?」
「ん?ああ、これからの準備だよ。っと、ナイスタイミング」
突然プロジェクターを設置し始めたら、誰でも気になるよな。どうやって誤魔化そうかと思っていたら、チャイムの音が聞こえてきた。
僕はこれ幸いと玄関へと向かう。そこには、真央と僕、それぞれの両親が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「信吾くん、話したいことってなんだね?」
「玄関ではなんですから、まずは奥へどうぞ」
真央の父親の言葉を笑顔でいなし、4人をリビングへと誘導する。4人は顔を見合わせるも、僕の誘導に従ってリビングに入ってくれた。
真央は、突然現れた自分たちの両親にびっくりしている。
真央の母親が、真央に話とは何かと聞いている。今日、両方の両親が来ることを知らなかった真央は、がんばって誤魔化している。義理の母親は楽しそうな雰囲気を醸し出しているので、よい話だと思っていそうだ。
この人たちに罪はないだけに、多少なりとも申し訳なさを感じる。
「みなさん、コーヒーでよろしいですか?」
僕の問いかけに、異口同音に了承の返事が帰ってくる。僕はキッチンに置かれていた電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。お湯が沸くまでの間に、マグカップを6つ出してインスタントコーヒーを入れる。
「お待たせしました。みなさん、お座りください」
両方の両親は、ダイニングテーブルの椅子に座る。僕は4人の前にコーヒーを入れたマグカップを置いていく。ダイニングテーブルで椅子がない1辺の真ん中あたりに、真央のマグカップを置く。次に、ダイニングテーブルの真ん中に牛乳、コーヒーフレッシュ、砂糖を出していく。
僕自身はマグカップを手にしたまま、話を始めることにした。
「ご多用のところ、お時間をいただき、ありがとうございます。今日お集まりいただいたのは、両家に関わるお話をさせていただきたいからです」
喉を湿らせるように、マグカップに口をつける。
それを見た4人は、ダイニングテーブルの真ん中から思い思いのものを手に取って、目の前のマグカップに入れていった。
「さて、早速ではありますが、本題に入らせていただきます。お話というのは、真央さんと離婚します、というご報告です」
「は?」「え?」「あ」「なぜ?」
「そんなっ!今日は話し合うって」
4人は僕に視線を向けたのち、顔を見合わせる。そして、僕の父親が最初に発言した。
「あー、信吾。あまりに突然すぎて、ついていけん。どうして離婚することになったのかを説明してくれんか?」
「もちろん。刺激の強いところがあるかもしれないけど、最後まで聞いてね」
僕の父親に言葉を返すと、僕は再びコーヒーで喉を湿らせる。
「離婚理由は、真央さんの不貞行為、つまり不倫です」
「なっ!」「うそっ!」
真央の両親が声を上げるも、僕は説明を続ける。真央の両親は、立ち尽くす真央を見つめている。
「真央さんが不倫しているかもと思ったのは、だいたい半年ほど前。お酒を飲みすぎて泥酔して帰ってきた真央さんが持っていたスマホの画面に表示されたハートマークだらけのチャットを見たことがきっかけです。1年ほど前に僕は部署異動をして、朝早く出勤し、夜遅く帰ることが増え、さらに出張も多くなりました。もし僕の出張中、真央さんが泥酔して帰ってきたときが心配という話をして、玄関に遠隔カメラを設定しました。ここで1つ、真央さんに嘘をつきました。1分以上立ち止まらないと撮影されない、という嘘です」
「……え?」
「本当は、センサーの範囲に動く物体が入ると、自動的に録画するよう設定していました。そうして、真央さんの帰宅パターンを調べました。すると、毎週火曜日だけは21時に帰ってきていました。このときの僕は、まだ真央さんを信じていました。なので、僕が必ず残業する火曜日に合わせて、自分の残業をしているのかもしれないと期待していました」
一度言葉を切り、僕の両親の表情を見る。真剣に話を聞きつつ、僕と真央の様子を見ているようだ。
「しかし、真央さんは僕を裏切っていたのです。毎週火曜日の帰りが遅かった理由は、会社の常務取締役と一緒にラブホテル通っていたためです。僕の言葉だけだと信ぴょう性が低いと思いましたので、証拠写真を用意しました。ラブホテルに入る2人の写真です」
プロジェクターと繋いだスマホを操作し、撮影した写真を表示する。真央の顔とラブホテルの看板が見えるよう撮影するのが大変だった写真だ。
真央は息を飲み、僕の両親は言葉なくプロジェクターで映された写真を見つめる。
「……真央、本当なのか?」
「……うん」
真央の父親の硬い声に、頷きだけを返す真央。真央の父親は、目を固くつむり、手を握りしめている。
10秒ほど沈黙が流れたのち、再び真央の父親が口を開く。
「なんてことを!!……信吾くん、すまなかった。私らの教育不行き届きだ。大変申し訳ない」
「いやいやいやいや!」
椅子から降りて土下座をしようとした真央の父親の肩を押さえ、土下座を阻止する。
「成人をすぎた人の行動は本人の責任です」
「……っ、だが」
「決して、お義父さんたちのせいじゃないですから」
無理やり立たせると、再び真央の父親を椅子に座らせる。
「……信吾さん、もう離婚するしかないの?娘が間違いを犯したことは事実です。やり直しを認めていただくことはできないかしら」
僕は無言でスマホを操作し、常務取締役の宇貴辺が家に泊まりに来たときの盗撮動画を流す。ソファに座りいちゃつきながら、土日も出張で仕事ばかりしている僕の悪口を言っている。いちゃつきながら服を脱がせあい、下着だけになったところで立ち上がって移動していった。次は寝室の盗撮動画を流す。初めのうちはお互いを貪り合うように絡み合っているだけのため、早送りして飛ばしていく。四つん這いになった真央を後ろから貫きながら、僕とどっちがいいかを聞く宇貴辺。そんな宇貴辺の言葉に、嬌声をあげながら宇貴辺のほうがいいと絶叫する真央。ここからは体位を変えるたびに僕をこき下ろす宇貴辺と、追従する真央が流れ続ける。
動画が終わったあと、真央の両親は放心したようにプロジェクターを見つめている。痴態が公開された真央はうずくまり、両手で耳を押さえている。僕の父親はプロジェクターに背中を向け、僕の母親は父親の耳を塞いだままプロジェクターを見ていた。
「お義母さん。これを見てもなお、同じことが言えますか?」
「……ごめん、なさい」
僕の言葉にビクッと体を震わせた真央の母親は、座ったまま頭を下げる。
「どんな理由があったとしても、こんなことをされてしまっては真央さんと婚姻関係を続けることができません。なので、離婚します。父さん母さん、ごめんね。離婚届の証人、書いてもらっていいかな?」
「バカタレ。1人で抱える必要なかったんに」
「仕方ないわね。信吾が決めたことなら、母さんたちは支持するわ」
「ありがとう」
両親の優しさに感謝しかない。
「お義父さんお義母さん、期待を裏切るような話ですみませんでした。離婚届の証人になっていただけないでしょうか?」
「……ああ。信吾くんが謝ることじゃない。本当に申し訳なかった」
真央の父親が返事をしてくれる。真央の母親はボロボロと泣いており、頷くしかできていない。真央に至っては、うずくまったまま動かないくらいだ。
「いえ。あと、真央さんに慰謝料請求させていただくので、支払いの監視をお願いしたいです」
「わかった。必ず耳を揃えて支払わせる。信じられないかもしれないが、私らを信じて欲しい」
「お義父さんお義母さんのことは信じています。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
それから数言の雑談をかわし、僕と僕の両親は家を出ることにした。正式な手続きはこれからだが、真央との離婚を決めることができた。
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