第33話 妻との話し合い(前)

 滝山弁護士に相談料を支払って協力してもらい、どうにかこうにか内容証明郵便を送付してから約1週間後の金曜日。昼休みに配送確の?」認サービスで配送状況を確認したら、内容証明が配送済みに変わっていた。

 時間的に、家族が受け取ったのだろう。本人より先に家族が読んでたら帰った瞬間、修羅場になっているんじゃないかと思うと自然に笑みがこぼれる。

 今日は定時で会社を出て家に向かう。内容証明が届いたので、次は真央に不倫を認めさせるのだ。

 家に帰り、夕食を食べ、順番に風呂に入った。部屋着でリラックスしている今こそ、揺さぶるには絶好のタイミング。


「真央。何か僕に隠してること、あるでしょ?」


「え……?突然どうしたの?」


「言葉にしたのは今日が初めてだけど、前々からずっと思ってたことだよ。真央、僕に隠し事してるでしょ。もう隠さなくていいんだよ」


「ないよ、な・い。信吾に隠し事なんてするわけないでしょ」


 真央が首を左右に振り、否定する。浮かべる笑顔は自然で、本当に隠し事などないように見える。確たる証拠がなければ、隠し事はないと信じてしまったかもしれない。

 しかし、疑いようもない証拠を持っている身からすると、どんな心境で嘘をついているのか、と思ってしまう。同じ仕草を見て、違う感想を持つということを身をもって体験している。とても不思議な感覚だ。


「本当に?何も隠してることはないの?」


「ないわよ」


 真央の気変わりを期待して念を押すも、笑いながら否定されてしまう。気変わりをして、不倫の話をされたとしても、この後の対応が変わることはないんだけど。

 僕は1枚の写真を取り出し、真央の前に置く。


「これを見ても?」


「え、え……ちょ、なによ、これ!?」


 写真には、ラブホテルに入る真央と宇貴辺の姿が映し出されていた。


「何って、見たままだよ。真央が、常務取締役の宇貴辺って人とラブホテルに入っていくところ、だよね?」


「な、なによ……どこから、こんなもの……」


「よく撮れてるでしょ?毎週火曜日に同じラブホテル使うからさ。で、これは隠し事じゃないの?」


 震える手で写真をつかむ真央の前に、もう何枚か写真を並べる。ラブホテルから出てくるところや、別の日にラブホテルに入るところを映した写真だ。


「う、うそよ……そう、うそ……うそ、うそよ。これは、わたしじゃない。わたしじゃないわ!信吾、ひどい。ひどいよ!こんな写真でわたしのこと疑ったの!?」


 つかんでいた写真をにぎりつぶし、机の上に置いた写真を腕で薙ぎ払い、涙を浮かべて訴えかける真央。


「こんな写真って言われてもな。この写真なんて、ばっちり真央の顔が映ってると思うんだけど?」


 真央が薙ぎ払った写真のうち、真央の顔が正面から映っている写真を拾い上げる。


「うそ、うそ、うそ!うそよ!合成とかで作られた写真なの!信吾が騙されているの!そう、信吾は騙されているのよ!こんな合成写真作るような興信所なんて信じちゃダメよ!」


 僕の手から写真を奪った真央はぐしゃぐしゃに丸めながら首を左右に振り続ける。


「……真央、ごめん」


「……しんご、わかって」


「その写真撮ったの、僕なんだよね」

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