第32話 作戦会議(後)
渡された内容証明の出し方を読んでいると、ドアからノックの音が聞こえてきた。若水さんがソファから立ち上がり、ドアを開けに行く。
「すまん、待たせた。依頼されたいという方はまだいらっしゃるのか?」
「急に呼び立てるような形となってしまい、申し訳ございません。いらっしゃいますよ。こちらへどうぞ」
初めて聞く男性の声が耳に届き、紙から視線を上げる。
そのタイミングで、若水さんに連れられ、スーツを着た男性が目の前に立った。
「はじめまして。ボクは
肩書きに弁護士とかかれた名刺を受け取る。
「ありがとうございます。僕は鈴崎 信吾です。よろしくお願いいたします」
「さて、早速だけど状況を伺わせていただけないだろうか?」
ソファに座った滝山弁護士から経緯の説明を求められ、これまでの調査について説明をした。滝山弁護士は、カバンから取り出したノートにメモを書き込んでいった。
説明がひと段落したところで、滝山弁護士から声をかけられた。
「これは提案なんだが、奥様に不倫を認めさせるのは不倫相手に内容証明が届いた後、とするのはいかがだろうか?大企業の常務取締役とはいえ、個人で内容証明を受け取った経験はないと思われる。そうすると、鈴崎さんから送られる内容証明が人生初の内容証明になる可能性が高くなる。ご夫婦の家にまで入っているので、鈴崎さんの奥さんが既婚者であることはわかっている可能性が高い。しかし、鈴崎さんには不倫が気付かれていないと思い込んでいるのだろう。よって、鈴崎さんの内容証明で現実を目の当たりにさせることができるのでは、と思ったんだ」
僕は滝山弁護士の顔をまじまじと見つめる。
「最初にお伝えした通り、こちらは提案だ。受け入れるか破棄するかは鈴崎さんにお任せする」
「……なるほど。ちなみに、内容証明が届いたことって差出人はわかるんですか?」
「ええ、わかるようになっています。内容証明の発送を郵便局に依頼した際、配送確認サービスの追跡番号を教えてもらえることができる。よって、配送サービス上で、配送完了とならば、届いたことになる。また、別途有料にはなってしまうが、受取人が受け取ったことを証明する配達証明をいうサービスを利用することで、受け取ったことを確かめることが可能だ。具体的な確認や依頼の仕方などは、若水からお渡しさせていただいた用紙の3ページ目に書かせていただいている」
もらった用紙をめくると、滝山弁護士の言う内容が事細かに書かれていた。
内容証明なんて、ほとんどの人が受け取ったことはないだろう。そんな受け取ったことない内容証明が届き、中を見ると気付かれていないと思っていた不倫が書かれている。それは驚くこと間違いなしだろう。
「なるほど、ありがとうございます。妻に不倫の事実を確認するのは、内容証明が届いてからにしようと思います」
「そうか!それがよいだろう」
「で、内容証明に書く内容でご相談なんですが、不倫相手に請求する慰謝料ってどれくらいが相場なんでしょうか?あまり相場から外れた金額にしないほうがいいかなって思いまして」
「不倫を理由に離婚を決めたということと、不倫の回数が多いことから、裁判になったとしても300万円は硬いと言える。しかし、相場というのは裁判になった際の落とし所というイメージで考えていただいてよいものだ。精神的苦痛や不利益を鑑みて金額を決めている」
「そうなんですね。そうしたら、内容証明に書く慰謝料は300万円ですか?」
「いえ、ここは500万円と書こう。話を聞く限り、かなり大きい屋敷に住んでいるということなので、金銭的な余裕はあるはず。また、定期的な逢瀬や家にまで入っていることを考えると、こちらの希望額は高めにしておいたほうがいい」
「それ、いいですね」
「自分で内容証明を書くのであれば、慰謝料の支払いが滞った場合は給与差し押さえの手続きを行うと明記しておいたほうがいい」
「その記載は、重要なんですか?」
「ええ、大変重要な内容です。慰謝料を払わずに逃げようとする相手を逃さないための方法になるので。」
僕は頷きながら、注意書きのところを赤いペンで印をつける。
「わかりました。……今後の対応としては、まず、不倫相手に慰謝料500万円を請求する内容証明を送付します。内容証明が届けられたあと、妻に不倫の事実を確認します。慰謝料の受け取りを待ってから、妻と離婚する、というおおまかな計画になるってことでよいですか?」
「大まかな流れとしては、それでよいだろう。細かい詳細についてはもう少し近くなってからでいい」
「ありがとうございます!僕、がんばりますね」
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