第22話 手がかり
男の素性や、それにつながる手がかりがないか、目を皿のようにして映像を見つめ、息づかいすらも聞き逃さないよう耳をすませる。
衝動的にスマホの画面を叩き割ってしまった以上の映像を見、音声を聞いているが、今日の昼間のような衝撃はない。いや、衝撃はあるのだろう。ただ、その衝撃を受けても心が固まっているので影響がない、という表現のほうがしっくりくる。信じようとした反動なのかもしれないな。
「ありゃ、なくなっちった」
一度映像を止め、冷蔵庫から6缶目を取り出す。他の缶チューハイより2倍近いアルコール度数を持つ缶チューハイだ。
「……ホントにアルコール度数高いのかな?口当たりがいいからわからないや」
一口、二口と飲んでみるが、他の缶チューハイよりもアルコール度数が高いようには感じられない。気にせず飲めそうということがわかったので、缶チューハイを片手に備え付けのデスクに戻る。
止めていた映像を再開するも、これといって男の素性や、その手がかりになりそうなことは言わない。
旦那と比べてどうだ、と聞くのはまだわかる。だが、旦那のいない間に男を連れ込んで、はお前が言うなっていう気持ちにしかならない。既婚者であることがわかって手を出しているヤツだってことがわかっただけでも収穫か。
『はぁ、はぁ、はぁ……火曜日、ふぅ……火曜日よりも、激しすぎよ。前も、すごかったけど、今日は前以上ね』
『そうかな?もしそうだとしたら、君が家に招いてくれたからだよ』
僕は電流が流れたような感覚になった。火曜日と言った。たしかに真央は火曜日と言ったのだ。毎週火曜日に遅かったのは、この男との逢瀬を楽しんでいたからに他ならない。
「ほとんど決まった時間に帰ってくるから、残業だとばっかり。まさか毎週不倫してるとは思わなかったよ」
過去の真央に返事をしてしまう。信じていた真央の姿が音を立てて崩れていく。今日、確定した。確定してしまった。僕の妻は不倫をしている。
「火曜日にこいつと不倫しているんだね。既婚者だってわかっていながらも手を出すこいつはどこの誰かな?出張から返ったら、火曜日に有給休暇をとるよ」
言葉にすることで思考を固定し、考えを更新していく。僕は、他にも手がかりになるものはないか、ひたすら書き続けた。
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