第19話 出張は罠
隠しカメラを仕掛けてからだいたい1か月。この前のような急な休日出勤や、泊まりがけの出張がなく、せっかく仕掛けた隠しカメラの出番はなし。やはり僕が戻らないことが確実な日じゃないといけないのだろう。
そう考えた僕は、担当しているお客さん先に出張する日程を調整することにした。今月は3件のお客さん先にいくことになっていた。今までは1回の出張の期間を短くするように分けていたが、今回は続けて3件ののお客さん先に行くようにしたのだ。
「ただいま、真央。今週後半から出張に行くことになっちゃった」
「信吾、おかえり。えー、どのくらい行っちゃうの?」
仕事から帰って早々、キッチンにいた真央に出張に行くことを告げる。
「だいたい2週間くらい。今週の木曜日に出発して、再来週の火曜日に帰ってくる予定」
「そんなに?今までで一番長いんじゃない?」
「日程調整がうまくいかなくてさ。3か所のお客さん先を一気に回ることになっちゃったんだよね。土日でいったん帰れるようにがんばったんだけど、移動とか作業とかで時間が取られちゃって。2週間くらい行きっぱなしだよ」
「2週間もいないの?」
「そうなんだよね。なるべく家に帰るって約束してたのに、ごめん」
「ううん、お客さんあっての仕事だもんね。仕方ないよ。けど、ちゃんと再来週の火曜日に帰ってきてよ?信吾の邪魔しないように、寂しくなっても連絡は我慢するからね」
「大丈夫だよ、真央と連絡してもちゃんと火曜日に帰ってくるから」
「むー、そう言って連絡したら予定通りに帰ってこなかったことたくさんあるでしょ。わたし忘れてないからね」
何を言ってるんだ、と言わんばかりの表情で言われる。たしかに、予定通りに終わらなかった出張は何回もある。それは真央から連絡をもらったことが原因ではないのだが、何度説明をしても受け入れてもらえないことだ。
当時は朝昼夜と仕事以外の時間の大半は真央と連絡をとっていた。しかし、真央には申し訳ないが、連絡をしながら作業をしていたので、真央との連絡が原因で出張が延びたわけではない。急遽新しい案件の話をいただいたり、トラブルが発生したり、仕事が理由で延長になっていた。
「出張の帰りが遅くなったのは事実だからな。そう言われると弱い」
苦笑しながら降参を示すように軽く両手をあげる。それを見た真央は満足げに頷く。
「わかればよろしい」
「ははー」
こうして出張中、よっぽどのことがなければ真央から連絡が来ないことが確定した。そして緊急時を除き、こちらからの連絡も行わないことになった。
僕は頭を下げながら、笑みがこぼれる。罠に気づいていないようだ。これで、真央が不倫をしているかがわかる、と。
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