第17話 調査の準備開始
夕食で使った食器を洗いながら、盗聴器の設置によい場所を考えつつリビングを見渡す。対面式のキッチンカウンターにくっつけるようにして置いたダイニングテーブル。キッチンから見てダイニングテーブル奥、右手の壁側にソファを置き、向かい側にはテレビ。ソファとテーブルの間にはローテーブルがある。ソファの奥にある窓はベランダへとつながっている。
ふと、真央がこの対面式のキッチンを気に入って、この家を借りることにしたことを思い出した。その思い出に引きづられるように、ここで過ごした思い出が蘇る。結婚してから一緒に住み始めることにした僕たち。ここへの引っ越しを機に、大きなダイニングテーブルとイスのセットを買ったこと。初めての結婚記念日で大きすぎるホールケーキを買い、なんとか2人で食べきったこと。僕の不注意で大きなビーズクッションを破ってしまい、リビングとダイニング、キッチンまでマイクロビーズまみれにしてしまったこと。
次から次へと脳裏に浮かぶ楽しかった思い出に、目から涙が滲んでくる。もし、真央に見られたらあくびをしていたと言い訳をするか。
チラリとソファに座る真央を見ると、楽しそうな雰囲気でスマホを見ていた。こちらを見るような気配は微塵も感じられない。
「前に聞いたときは、無料マンガを読んでるって言ってたっけ」
食器の泡を流す水音にかき消され、僕の独り言は真央には届かない。
1年ほど前、僕の部署異動によっては僕は毎週のように出張にいくようになった。3回目くらいの出張から帰ってきたとき、真央がスマホを見ていたので聞いたら、無料マンガを読むのが楽しいと言っていたのだ 。
「そんなに面白いのかな。料理と食事のとき以外はほとんどスマホ見てる気がする」
最後の食器を水切りカゴに入れる。生ゴミを片付け、シンクを洗う。シンク周りに飛んだ水をダスターで拭きとり、ダスターをゆすいで干したら洗い物はおしまい。
「食器洗い用の洗剤がなくなってきてる。詰め替え買っとかないと」
マグカップにティーバッグを入れ、電気ケトルのスイッチを入れる。
ポケットからスマホを取り出すと、いつも使う電器屋さんのECサイトを表示する。今使っている食器洗い用の洗剤の詰め替えをカートに入れて注文。
注文完了の画面が表示されるのと、電気ケトルのお湯が沸くのが同時だった。
「お、ラッキー」
電気ケトルからマグカップにお湯を注ぐと、盗聴器を探して世界規模のECサイトのアプリを起動する。
「へー、いろいろあるんだなー」
盗聴器と入力すると、盗聴器発見器に混じってちらほらと盗聴器を見つけることができた。
「あれ、カメラとあんまりサイズ変わらないのか。うーん、それなら映像もあったほうがいいかもなー」
盗聴器と隠しカメラのサイズが近い、なんなら隠しカメラのほうが小さいかもしれないことを知ると、隠しカメラを探すことにした。
「うわー、これは悪用厳禁だな。こんなん知らなきゃ気づかないって」
隠しカメラのバリエーションの多さに驚くとともに、簡単に悪用できてしまう怖さを感じる。目的を達成したら、壊して捨てよう。そう心に誓った。
「うちの中にあっても違和感ないだろうってことで、これとこれと、あとはこれかな」
いくつか出てきた隠しカメラの中から3つを選び、注文ボタンを押す直前で指がピタリと止まる。置き配だと誤って真央が開けてしまうかもしれない。これはコンビニ受け取りにしよう。こうして、僕は真央を信じるための調査の準備を始めた。
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