第16話 証拠集めの注意点

「ご自身で確かめられる貴方様に、いくつかお伝えさせていただきたいことがございます」


 若水さんの真剣な雰囲気に、こちらも姿勢を正す。


「1つ目は、確かめるためだからと犯罪を犯さないようお気をつけくださいませ。もし、相手の家がわかり、家にいったとしましょう。たまたま窓越しに不貞行為を見たとしても、決して盗撮や盗聴をしないでくださいませ。盗撮した画像や動画は、裁判では信頼性の低い証拠と扱われてしまいます。さらに、盗撮や盗聴はプライバシーの侵害として逆に訴えられてしまう可能性がございます」


 相手の家どころか、相手がどこの誰かもわからない状態だが、僕は神妙に頷く。しかし、若水さんの注意を気にするのはしばらく先になりそうだ。


「2つ目は、自宅や自家用車以外に盗聴機やGPS発信機をつけないようにしてくださいませ。相手の家の盗撮と同じように、プライバシーの侵害で訴えられてしまうかもしれません。焦ることもあると思いますが、最短経路は罠と思ったほうがよいでしょう」


 家に盗聴機を仕掛けることは考えていた。自家用車は持っていないので、家以外の仕掛け場所が思いつかないが、僕は再び神妙に頷く。


「3つ目は、紛失防止タグをGPS代わりに使わないようにしてくださいませ。小さくて目立たない紛失防止タグをGPS発信機かわりにする、というのは悪手でしかございません。手軽である分、数多く悪用されております。事態を重く見た提供企業が改良しており、見知らぬ紛失防止タグが身近にある場合、ご自身のスマホがそれを検知して教えてくれます。もし、こちらの紛失防止タグをつかって奥様の居所を探すのはお勧めいたしません」


「え、そうなんですか?」


「はい。紛失防止タグをターゲットのカバンに忍ばせたり、アイドルや有名人へのプレゼントに仕込んだり、悪用の事例には事欠きません。多くの人が個人のスマホを持っていらっしゃいます。そのスマホから見て真知らぬ紛失防止タグが身近にあると、安全のためスマホに通知があるのでございます」


「なるほど」


 実は紛失防止タグを使おうと思っていたのだ。若水さんに教えてもらってよかった。別の手段を考えよう。


「最後に、タクシーの方に前の車を追うように伝えても、追いかけてくださることは稀でございます。もし、追いかけてくださっても、ドラマなどのように目的地まで着いていくことはできないと思っておいてくださいませ」


「あ、それもできないんですね」


「左様でございます。やってみたい気持ちがあるかもしれませんが、基本的に尾行は追いかけるより情報を集めて分析し、先回りするつもりで追いかけるのがよろしいでしょう」


「分かりました。ありがとうございます」


 満面の笑みで頭を下げ、教えてくださったことに感謝を伝える。

 帰りながらECサイトで家の中に設置する盗聴機を探すことにしよう。ずっと録音はできないだろうから、保存場所も考えたほうが良さそうだ。


「改めまして、若水さん、教えていただき、ありがとうございます。妻が本当に不貞行為をしているのか、慎重に調査します。では、失礼いたします」


 若水さんのにこやかな笑顔の笑顔を背に、盗聴機の設置場所を考えながら僕は帰宅する。

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