第7話 不安解消?

 若水さんと話した翌日の夕食後、見守りカメラの設置を提案してみた。


「テレビ電話とかじゃダメなの?」


「うん、この前みたいに酔いつぶれちゃうと真央から僕に電話できないと思うんだよね。それに、この前見たニュースで自分の吐瀉物で窒息したっていうのを見ちゃったからさ」


 全身で心配している雰囲気を出す。不倫の心配もある。けど、それ以上に真央の命が心配なのだ。


「うーん、信吾の言うこともわかるよ。けど、なんかね……」


「真央の気持ちもわかるよ。だから、1分以上見守りカメラの前にとどまったら通知するようにしようと思ってるんだ」


 仕事帰りに電気屋さんからもらってきた見守りカメラのカタログの、動体検知の部分を指差す。真央はマグカップを両手で持ちあげ、僕の指が示すあたりをちらっと見る。


「玄関に1分以上とどまるってことは、倒れてる可能性が高いと思うんだ。僕が出張しているときに見守りカメラの通知を受け取ったら、カメラの映像を確認する。それで、もし真央が倒れていて動けないようなら救急車を呼ぶ。で、急いでこっちに帰ってくるよ」


「え、救急車呼ぶの?」


「もちろん。僕がいないときに真央に何かあったらって思うと心配で心配で。だから、僕の心配を和らげるために、見守りカメラを玄関につけたいんだ」


「写すのは玄関だけ?」


「そうだよ。だから、酔いつぶれたときは這ってでもでも玄関の中に入ってね」


「ぷっ……這ってたらカギ開けられないじゃない。ふふっ、大丈夫よ。この前も玄関のカギは開けられたから」


 真央は吹き出してしまったことを誤魔化すようにマグカップに口をつける。


「……仕方ない、信吾の不安をやわらげるために見守りカメラつけていいよ。でも、わたしは管理しないからね?ちゃんと信吾が管理してよ?」


「ありがとう!もちろんだよ。設置も管理も僕がやるからね」


 譲歩してくれた真央に感謝を示す。これで安心して出張に行ける。

 僕はさっそく目をつけていた見守りカメラをECサイトで注文した。


 数日後、届いた見守りカメラを真央の前で開封した。


「思ったより小さいのね」


「そうだよ。これなら邪魔にならないし、気にならないでしょ?」


 見守りカメラが撮影している映像をスマホの画面に出し、真央が玄関の床に倒れても映るよう設置場所を調整する。あまり目立たず、玄関ドアと床が映る位置に置くことができた。


「できた。真央、こんな感じで映るよ。スマホ持って?」


「……へー、画質はそれなりなのね」


 最低画質に設定した映像を写したまま、真央にスマホを渡す。僕は玄関に立ち、カメラに向かって手を振って見せる。以前真央が酔いつぶれたときを思い出し、真央が倒れたあたりに横になる。


「表情はともかく、倒れてるのはわかるわ。これを見たら、信吾は救急車を呼ぶのね?」


「よっと……そうだよ。真央が倒れてる姿を見て冷静に救急車を呼べるかはわからないけどね」


「確かに。信吾が自分で倒れたのはわかっていても、カメラ越しに玄関で寝てるのを見るとちょっと心配になっちゃう」


 立ち上がった僕は真央からスマホを受け取ると、見守りカメラとの接続を切る。


「これで安心して出張に行けるよ」


 あのとき、若水さんの不倫相談所に行ってよかった。若水さんに話を聞いてもらい、見守りカメラというアドバイスをもらったおかげだ。もう真央と顔を合わせるのが気まずいという思いもない。

 不思議そうにこちらを見る真央が可愛くて、僕は真央を抱きしめた。結婚を祝ってくれたみんな、僕は幸せだよ。

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