第8話 生まれる不信感
見守りカメラを設置してから数日後、僕は飛行機の中にいる。機内WiFiを契約してはみたものの、テキストデータのやりとりがやっとというくらい回線が細い。今、見守りカメラから通知があっても映像を見ることはできないだろう。
「真央にも言わないことなんて、見守りカメラが初かもな」
隠し事が得意ではない僕は、仕事中に起こったことや思ったことを包み隠さず真央に伝えていた。もちろん、守秘義務や秘密保持契約に関わることは伝えていない。だが、裏を返せばそれ以外は全部真央に伝えているといっても過言ではない。
そんな僕が、不倫相談所の若水さんのことと、見守りカメラは動体検知センサーで撮影範囲内に動くものがあれば撮影していることを真央に隠し続けているのは、快挙と言ってもいいだろう。自覚していなかったが、思った以上に不安だったのかもしれない。本来の使い方ではないが、安心感を与えてくれる見守りカメラと、アドバイスをくれた若水さんには感謝しかない。
そんなことを思っていると、着陸に向けたアナウンスが流れてきた。今回の出張は木曜日から水曜日まで。土曜日も仕事ため、週末も出張先に残る予定だ。手荷物をまとめながら、家を出るときにした真央との会話を思い出す。
「いってきます。今回は国内とはいえ飛行機の距離だし、土曜日も仕事になっちゃったから、家に帰るのは週明けになりそう」
「そっかぁ。また週末を別々に過ごすのね。なんか寂しいな」
「ごめんね、僕も寂しいよ。次の週末はこっちにいられるはずだから、どこか行こう」
「そうだね。じゃあ次の週末を楽しみにしとくね」
1年ほど前に部署異動して以来、残業や出張が一気に増えた。真央には申し訳ないが、新しいことを覚えたりあちこち出張に行ったりすることに充実感を感じている。しかし、真央と過ごす時間が減っているのも事実。
「今度有給とって真央とどこか行くのもいいかもな。真央が有給取れればだけど」
飛行機を降りて空港を出ると、止まっていたタクシーに乗り込む。タクシーの乗務員さんに、ホテルの名前を告げる。乗務員さんはにこやかに頷いて、タクシーを走らせ始めた。窓から見える青い空を見上げながら、ポツリと独り言がもれる。仕事は楽しいが、真央と過ごせないのは寂しいものだ。
ホテルにつき、荷物を置くと出張先の会社へと向かう。出張先の会社についてからは怒涛のように時間がすぎていった。日頃、電話会議で話し合っているとはいえ、やり取りできる情報量は少ない。顔を合わせられる今のうちにいろいろと進めてしまおうと、会議だらけの日々。あっという間に土曜日になった。
「ん?見守りカメラか。買い物かな」
土曜日の昼過ぎ、スマホの通知音が鳴る。見守りカメラから動体検知センサーによる撮影開始のお知らせだった。僕はそのお知らせをタップして見守りカメラの映像を表示する。そこには真央が玄関を開けて出ていく姿が映し出されていた。
「見慣れない服?いや、カメラの画像がそこまで鮮明じゃないからかも。どんな服もカメラ越しだと見慣れない気がしちゃうんだよね」
自分の記憶力の不確かさに苦笑しつつ、見守りカメラの映像を閉じる。出張先の会社の方から声をかけられ、仕事に集中することにした。
翌日の日曜日。怒涛の日々で疲れていたのだろう。昼近くまで寝てしまっていた僕は、ホテルを出て周辺を散策することにした。気になるものを見たり、本屋に行ったりしているといつの間にか夕方になっていた。
「晩ご飯どうしようかな。この辺の地のものが食べれる場所とかあるといいんだけど」
スマホで地図アプリを開き、食事を取れる場所を探していると、見守りカメラから撮影開始のお知らせが届いた。深く考えずにお知らせをタップすると、見守りカメラの映像が表示される。真央が家の中を向いて玄関に立っている。そして靴を脱いで家の中へと入っていった。
「真央もどこか出かけてたのかな……あれ?」
なんとなく違和感を感じ、見守りカメラの撮影記録を見る。前回の撮影記録は土曜日の昼過ぎ。それから今まで見守りカメラの撮影記録はない。
「うーん、見守りカメラの調子が悪いのか?」
見守りカメラ本体を見ることができない遠方でできることはない。帰ったら見守りカメラを見ることにし、今は諦めて晩ご飯を食べることにした。
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