第4話 疑えば怪しく見えてくる

 真央のスマホにハートだらけのチャットのような画面が表示されていた日の翌日、真央にハートだらけのチャットのような画面について聞くことはなかった。付き合っていたときですら、真央からチャットでハートマークが送られてきたことはほとんどない。真央の性格や趣味を考えると、チャット風の小説だったのだろう。僕はそう思い込むことにした。


「『結婚3年目の不倫』ね」


 通勤中に電車の中で見ているニュースアプリに表示された記事に、一瞬指が止まる。真央と結婚して3年目。他人のフリ見て我がフリ直せ、の心持ちで記事を表示する。どうやらシリーズものの記事だってようで目次ページが表示された。1つめの記事から目を通していく。


「配偶者に罵られたり激しく詰められたりしたことがきっかけになる人もいるのか。これは配偶者のほうが悪い気がする。けど、奥さんが妊娠出産で子供につきっきりになったからってのはよくわからん。家事育児を協力して、話し合ったら解決しないんだろうか」


 記事は不倫された人不倫した人の体験談体験談から、不倫のきっかけや不倫がバレた理由、取材当時の状況が書かれていた。


「……配偶者には見せられない顔も不倫相手になら見せられる、か」


 ハートマークだらけのチャットのような画面が浮かぶ。あれが配偶者の僕には見せられない真央の一面なんだろうか。今さらながら、一瞬しか見られなかったことが悔やまれる。そうは言っても、吐き気を訴える真央を放置してスマホを見るわけにもいかなかったのも事実。

 チャット風の小説と思い込むことにしていても、こんな記事を読んでしまうと、疑いと不安が頭をもたげてくる。


「不倫相手とスマホでチャット……」


 スマホで不倫相手とチャットして、イチャイチャしたり次の逢瀬の相談をしたりしていたという記事。結婚当初より真央がスマホをさわる時間は増えたように思う。以前、真央から仕事のシステムが変わったので、スマホで仕事する頻度が増えるからスマホの料金プラン変更の相談を受けたことがある。だから、スマホをさわっているのは仕事をしているんだとばかり思っていた。

 だが、疑いの目で見たら、不倫相手とチャットをするためのスマホの料金プラン変更とも思ってしまう。出かけたときや外食しているとき、難しい顔でスマホを操作していた。あれは仕事ではなく、不倫相手からの連絡を隠すために難しい顔をしていたんじゃないか。


「あんなにベロベロに酔って帰ってくるなんて今までなかったよな……」


 今までは二次会や三次会に行っても、顔を赤くするくらいで、酔いつぶれるほど飲んで帰ってきたことはなかった。就職して6年目。僕もそうだけど、経験を積んで任される仕事の範囲や責任が増えたり、後輩などの面倒を見たり、3年前よりは飲み会が増えるのも当然。お客さんや新人さんの手前、飲まないといけないときもある。この前が、たまたまそういう日だったんだろうと思おうとしていた。

 だが、疑って見てしまうと、不倫相手との逢瀬を楽しんでいたんじゃないか、とも思えてしまう。不倫相手と逢瀬をして楽しく飲むあまり、普段以上にお酒が進んだのかもしれない。


「……おっと、降りなきゃ」


 あれこれ悩んでいるうちに会社の最寄駅についてしまった。電車を降りて、頭を仕事モードに切り替える。歩きながら、今日中にやらなきゃいけないことをリストアップしていく。しかし、思い出してしまったハートマークだらけのチャットのような画面が頭から消えることはなかった。

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