第2話 結婚生活の休日の一コマ

「信吾、ご飯できたよ」


「ありがとう、おいしそうだね」


 食卓に並ぶパスタとスープ。今日のお昼は真央が作ってくれたものだ。料理は下手と言っていたが、そんなことはない。たぶん、真央のお母さんと比べて下手という意味だろう。ただ、比較相手が良すぎるのがよくない。真央のお母さんは、フランス料理のコースを家庭のキッチンで作ってしまうような人だ。そんな人と比べ続けたら、ほとんどの人が自信をなくして当たり前だと思う。


「今日はパスタソースも作ってみたの。口に合うといいんだけど」


「食べなくてもわかるよ。絶対おいしいに決まってるね」


 真央と向かい合うようにダイニングテーブルにつく。食卓の上には、赤い色をしたソースが乗ったパスタと、コンソメスープ。赤い色をしているから、ソースはトマト系だろうか。我がことながら情けないことに、食事に関しては嗅覚も味覚もオンチになってしまう。だが、それを告げた時に真央から言われた、おいしいの幅が広いんだね、と肯定してくれた言葉は忘れられない。


「「いただきます」」


 早速、真央お手製のソースをからめたパスタを一口。


「おいしい!ありがとうね」


「ふふっ、どういたしまして」


 お昼を食べたあとの予定を話ながら、真央の用意してくれた食事をとる。大事な奥さんといっしょにいることができるだけでも嬉しいのに、その奥さんが料理を作ってくれることに感謝しかない。


「ごちそうさまでした」


 一足先に食べ終えた僕は、空になった食器を持ってキッチンへ。洗い物は僕の担当なのだ。結婚して3年。そのときどきの状況に合わせて家事の分担を変えているが、洗い物だけはずっと僕が担当している。


「おそまつさまでした」


 後を追うように食べ終えた真央も、キッチンに食器を持ってきてくれる。


「洗い物、ありがとう。慎吾は手が荒れたり切れたりしてない?」


 真央の心配に答えるように、手のひらを見せる。


「大丈夫、傷ひとつないよ」


「いいなー、うらやましい……っ、ちょっと!」


 荒れたり切れたりしていない僕の手をみて、拗ねたようにとがった真央の唇をつまむ。すぐに手を払われて、ポカポカと擬音がなりそうな雰囲気で肩を叩かれる。


「あはは、ごめんごめん。真央がかわいいからつい」


「もう、心配したのに」


 怒ったような雰囲気を出しつつ、真央はリビングに向かっていく。僕はそんな真央を微笑ましく思いながら、洗い物を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る