第15話 車掌さんに、かけつけ1杯!

 大垣を過ぎた頃やったと思う。おもろいことが起こりましてなぁ。

 車掌さんがビュフェを通ったの。

 おそらく、二等車の検札か車内巡回の途中やなかったかと思う。

 乗客専務というのか、この手の仕事について間もなさそうな若い人やった。


 こっちの寿司コーナーやなしに洋食側のコーナーのコックさんが、何を思ったのか、ビールをグラスに一杯注いで車掌さんに渡したのよ。

 誰かの客からのものらしい。

 ほら、寿司屋であるでしょう。板前さんやウエイターさんにビールを飲ませてあげる、あれのノリや。

 しかし、車掌さんにしたものかな(苦笑)。

 出すほうも出す方やろうけど、それを断りもせんと正々堂々受けるほうも受ける方や。それを車掌さん、断るどころか喜んで頂いて、しかも一気に飲まれた。

 お客さんが何人かいて、皆、ぼくらのようなサラリーマンスタイルやけど、特に咎めたりなんかしなかった。女性はいなかったな、その時は。


「よ、車掌さん、頑張れよ!」

「ありがとうございます!」


 こんな調子で問答している始末や。

 車掌さんも別に悪びれず、取っていた帽子を右手で上に掲げて、威勢よく礼を述べて、頭を下げて帽子をかぶって、それで二等車のほうに行かれたのよ。

 今なら大問題だろうが、ま、このくらいはどういうことない話やったな。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 肝心かなめの寿司の「お味」のほうね。

 こちらはまず、日本食堂側よりもネタの品ぞろえが幾分多かった。

 なんせ寿司っていうのは、ネタあってなんぼの商売や。

 列車食堂というのはいろいろ制約があるものではあるが、そういうところで独自性を出しておるところは、さすが新大阪ホテルと思ったね。

 なんせ、それまでも東京に出向くときに何度か急行「なにわ」にも乗ったことがあるが、割に美味い食事を提供しとった。

 もっとも、今時の若い人やったら、どうやろ。

 都ホテルや帝国ホテルが入っておる食堂車も新幹線にあるが、案外、敷居が高いかもしれんわな。


 わしはまあ、あの「富士」で免疫ができておったから、何ともなかったけどな(苦笑)。

 しかし、あの時の破天荒なおっさん、ある意味、うらやましいよ。

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