第12話 日本食堂も、悪くないね。
それを言うなら、昔の「つばめ」や「はと」の展望車の客らからしてみれば、むしろ「安いだけ」の食事や。そういう人ら、乗るときは高級な仕出し弁当なんか頼んでおられたようであるから、そりゃあ、もう(苦笑)。
その手の人らに言わせれば、食堂車なんかせいぜい、成上り者が粋がって行くところでしょうよ。
それはともあれ、まずは、日本食堂さんの寿司をいただいた。
まあ、ごく普通の寿司屋やった。江戸前というだけあって、どちらかというと東京あたりの味付けに近いなと思った。
渡辺君も、同意見やったな。
まあこれだけではと思ったもので、「こはだ」をそれぞれ1貫ずつ、追加してもらった。
あの時一番安かったネタは、この「こはだ」と、あとは、たことかいかとか。
ギョク握り、卵焼きの握りなんて今時安いものだが、当時は卵が今より高価だったからね、マグロの赤身とかたいとか、あのあたりと一緒の値段やったはずよ。
特上はともあれ、上握りにはえびは入っていなかったな。なんせ今よりも、えびは高価だったからね、トロの倍からしていた。
まあその、渡辺君も私も、この寿司が目当てでありましたからな、朝はともかく昼飯食っていなかっただけに、いやあ、旨かったぞ。それで、京都に着く前くらいには、あがりも飲ませてもらって会計を終えて、席に戻ったね。
京都からは、また幾分客が乗ってきた。
ただ、この日は満員までにはいかなかった。
指定席だからというのもあるが、隣の一等自由席も、立席はなかった。
この一等車は、昔からの特急列車と同じくリクライニング付であるから、背もたれを倒して、しばらくゆっくりしようということで、少し食休みをした。
京都まではトンネルがないが、東京方面に向かうところで早速、トンネルに入った。大津を発車したあたりで、渡辺君が尋ねてきた。
「岡原さん、日本食堂のほう、どうでした?」
「悪くはないな。江戸の庶民のソウルフードと申そうか、そんな印象を受けたね」
「江戸の民衆の食ってことですな」
「せや。それに尽きる。私は新大阪ホテルの食堂もよく利用するが、あちらよりは、何だね、気軽に立ち寄れそうな雰囲気やった。日食さんも、悪くはないね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます