東海道急行・ビュフェの寿司食べ比べ

第10話 1本外して、少しは楽に・・・

 ワインのボトルも半分を割ってきた。つまみも、幾分減っている。

「さあさあ、諸君、まあ飲みたまえ」

 岡原名誉教授は二人のグラスにワインを注ぎ、さらに自分にも注ぐ。

 その注いだワインを半分ほど飲み、チェイサーの水を飲む。

 向いの元陸軍将校と元帝大生は、ワインを飲みながら残ったチーズとクラッカーをつまみつつ、次の話を心待ちにしている模様である。

 この調子なら、次は何の話になるのだろうか?


「では諸君、今度は、ワタクシが現役教授時代のお話を参ろう。御存知のS電鉄でこの度晴れて役員に就任したあの渡辺寿保君と、東京に出張した時のお話である。これなら、戦時中に堀田君の前でした話ではないから、悪い記憶を思い出さなくてよろしかろう」

「ひょっとしてまさか、東京に渡辺さんと行かれた時の、寿司の話ですかね?」

 堀田氏の予感、的中した模様。

「そうです。急行「せっつ」の食べ比べの話です。あれはしかし、旨かったね」

 ワインを口にしてグラスを置いた山藤氏が、呆れながら述べる。

「大先生、大阪から東京まで1日2食も寿司ですかいな。おっさんそれひょっとして料飲税逃れかと最初は思いましたが、さすがは食通の岡原大先生、明らかな意図が、おありだったようですね」

「山藤さん、弁チャラ言いつつひそかに毒を盛るようなお言葉ですけど、そらぁそうですぞ。そんな非国民まがいなこと、旨いもの食ってまでしますかいな」

 岡原氏は、十数年前、まだ現役教授だった頃の話を始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 あれは、昭和36年の5月の半ばでしたな。東京で学会があるというので、参ることにしました。あの渡辺君も来るそうで。

 私、渡辺君と示し合せまして、とにかく行きは「粋」なことをやろうということに相成りました。これは洒落である。


 大阪14時ちょうど発の急行「せっつ」の一等指定席を取りまして、それで参ることにしました。

 その前の12時30分発の「なにわ」だと混むのではないかということで、あえて少し時間をずらしたわけです。

 その日私は、朝大学に少しだけ寄って、それからまず大阪に向いまして、昼過ぎに渡辺君と大阪駅で落合いました。

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