第7話 ナツミカン、そして、珈琲。
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「あの洋食堂車で、よくまあ、そんなことができましたね。私ら陸士(陸軍士官学校)の食堂や、ましてマナー講義でそんなことやったら、懲罰ものでしたわ」
山藤氏、ワイングラスを口にしつつ呆れる。
「そんな食べ方を堀田家界隈でやらかしたら、末代までのひんしゅくものですよ。私の祖母が見とがめようものなら、そんなことは米西部の田舎者のやることですとか言って怒られますわ」
堀田氏もワインをすすりつつ、体験をもとに感想を述べる。
「さて諸君、話はここでは終りませんぞ」
「ですよね」
2人とも相槌を打ち、白い液体を飲んで間をおく岡原氏の話の続きを待つ。
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さて、洋定食には、今時の喫茶店のモーニングでもあるところにはあるものがついて参る。
他でもない。デザートとしての水菓子であります。水菓子というのは教養溢れる諸君には十二分御存じのことと察し上げるが、果物のことである。
丁度ぼくらのところに水菓子が来る時分に、一番向こうの2人掛けのテーブルに外国人客がお二人おられてね、その人ら、夏蜜柑の皮が、どうもうまく剥けなかったようや。
片言の日本語で、ウエイトレスのおねえさんに、こんなことを言っておられた。
「このナツミカン、キモノ、サヨナラしてください」ってね。
おねえさん、丁寧に、お二人の夏蜜柑の皮をむいて差し上げていた。
あの雰囲気はイタリアかスペインあたりのラテン系の人やったが、どうやら、二等寝台車の客で京都に御用がおありの模様や。
御両人とも、英米のアングロサクソン系の男見たような大柄ではなかった。
閑話休題。ほな、私ども品位あふれることもないけど、天下の大学生の食卓ね。
この時は、そのラテン系の人ら同様、夏蜜柑がサーブされました。
一人につき半分ね。私と菊政君で一個や。
こちらをうまいこと果物ナイフを使って、品よくおいしくいただきました。
主としてこの時のために、フィンガーボウルの水はあったのよ。
ぼくらはどちらも、使ったよ。
少し遅れまして、食後の珈琲が出て参ります。
果物の後に、幾分砂糖とミルクを入れまして、あの黒く苦い液体をマイルドにしていただきました。
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