第6話 おっさんにしては、まともな・・・

  世にも気の毒なウエイターのおにいさん、こんなおっさんテキトーでヨカローところを、ま、一応ドレスコードが本来ある場所だけに、丁重に仰せや。

「テーブル上のお料理が終わり次第、順次、お出しいたします」

 おっさん、これにてひとまず安心や。

「さよかぁ、ほな、次、頼むわ~」

「かしこまりました(ビシッ)。フィンガーボウルのお水、お注(つ)ぎいたしましょうか?」

「いや、コップにあるから、まだええわ」

 注ごうものならおっさん、間違いなくまた一気飲みやろな。

 あるいは、口をゆすぐとか。

 まあ、その「危険」やけど、さしあたり回避できたみたいや(苦笑)。


 で、私ら。品あるつもりの帝大生と慶応ボーイの席や(苦笑)。

 次に来たのは、スープと卵料理。

 それと一緒に、トーストとバターが順次やってきた。


 あの時は確か、コンソメスープやった。

 特にフィンガーボウルを使う用事もなく、ごく普通に、スープはスプーンで「食べた」。お次は卵料理と野菜。ぼくは目玉焼とベーコンやったけど、菊政君はオムレツとハムや。魚フライも選べたようやけど、イギリス人の昼飯というかパブの軽食でもあるまいし、朝からは、エエワ、んなもん。

 とにかくここは、きちんとフォークとナイフを使っていただくところや。

 そのようにしたで。

 黄身のあふれたのはまず野菜で、それでも残ればバターのついていないトーストの切れで皿を拭くようにとっていただいた。

 菊政君も同じように、オムレツの残りをきれいに食べておいでや。


 でぇ、おっさんや! かの、おっさん。

 まずはスープのカップを手に取って、これもまた、フィンガーボウルの水を飲むみたいにズズズとすすって、熱かったのやろか、ちょっと間をおいてまたカップをもって、一気に「お飲み」になって、しばしもぐもぐされた。


 お次は、卵料理と付合せの野菜や。

 ここは少し、まともやったな、あのおっさんにしては(苦笑)。

 フォークを右手、ナイフを左手に持って、まずは目玉焼きの黄身のところだけ切って、その黄身をこれまたズズズとすすって、残りをガブリよ。

 あとは切った後の白身と野菜を、今度はナイフを置いてフォークを右手に持ち替えて、一気にパクパクや。


 パンはどうかって? トーストに、とにもかくにもバターをひたすら塗りたくって、あとは一気にぱくついておしまいや。バターが指に付いたみたいやけど、舐めて、その後ナプキンでふき取っておったな。


 ま、ここもあのおっさんにしてはという条件付でやが、まともなテーブルマナーでしたと、講評しておこう(苦笑)。

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