第2話 枕詞は景気よく 2
「そらあ、エエかも、ですな」
機嫌よくさらに一口ワインをすすり、各々のグラスにワインを少しずつ注ぎ足した名誉教授は、目の前のチーズとクラッカーを一口つまみ、もう一度ワインをすすった。少し若い向い側の二人も、年長の大先生に続いた。
「ほな、話、行きマッサ」
先ほどの口調とは打って変わって、今度はぶっちゃけた物言い。
この落差、岡原氏の名口調の特徴である。口さのない人たちからは「迷」口調と揶揄されているそうだが、氏は一向に意に介していない。
それどころか、わざとそれをネタにしているほどである。
「岡原さん、そういえばおたくの後輩でS電鉄の部長になっておる渡辺寿保さんからお聞きしましたけど、学生時代、特別急行の洋食堂車に行かれたそうで。他にも何ですか、伊勢参りの普通列車にわざわざ乗って食堂車に行ったとか、そんな話を散々聞かされましたよ。岡原さんのような人がそんなことされるから、あの渡辺さんのような人が育つのかと思うと、なんとも言えませんねぇ(苦笑)。しかし、御本人から直接お聞きするのは、確かに私は初めてですから、もう、ぜひ、お願いしたいです」
「私は何度かお聞きしましたけど、何ですか、あの戦時中の研究室でそんな話ばっかりされて、私ら、あの御時世でただでさえ腹減っているのが余計に腹減りましたわ(苦笑)」
「堀田君、岡原センセイの話、根に持ってないか?」
「ええもう、ちょっとどころか、結構、持っていますよ。おかげさまで、外でうまいものを食べることが生甲斐みたいになってしまいましてね、家族には呆れられていますわ」
ここで、岡原名誉教授が一言。
「堀田君、自業自得や。私は君に、外食で贅沢しろとか、そんな指導はしていないはずであるが・・・」
軽い言い合いが終り、一様にワインをすすったところで、岡原氏は話し始めた。
・・・・・・・ ・・・・・ ・
諸君、最近の食堂車であるが、いささか簡便になっていく傾向がありますな。
私は、どうも、その風潮は好きになれません。
その原点はやはり、学生時代に特別急行「富士」の洋食堂車の朝食にあることは、確かです。
あれは、昭和10年の秋口でしたか・・・。
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