システマチックに、粋に ~列車食堂談義 前編

与方藤士朗

プロローグ

第1話 枕詞は景気よく 1

 1977年春。

 京都大学工学部教授を定年退職した岡原真一氏は、同大学名誉教授になるとともにO文理大学の教授に招聘され、週に数日、京都から岡山にある大学に通うことになった。常宿は岡山駅前のホテルである。


 そのホテルにはレストランもある。岡原氏は毎週そのホテルで講義後、誰かと酒を飲んで食事をすることを楽しみにしている。

 この日は、理学部の研究室で世話になっていた助教授時代の後輩であるO大理学部教授の堀田繁太郎氏と、その長年の友人でもある米穀店主の山藤豊作氏が呼ばれていた。

 目の前には、軽いつまみと白ワインが1本、置かれている。

 女性店員が、主客である岡原教授に味利きをしてもらう。そのあと、各々のワイングラスに赤い液体が注がれた。


 乾杯の後、それぞれ軽く一口かそこら飲んだところで、岡原名誉教授が一席述べ始めた。いささか大げさな口調で話すのが、この大先生の特徴。


 堀田君に山藤さん、御苦労様です。

 本日はまた性懲りなき私の悪趣味にお付合い頂き、誠にありがとう。心より厚く、御礼(オンレイ)、申上げます。ホンマ、おおきに。

 つきましてはですな、いつかあなた方にお話したいと思っておりました、ワタクシの学生時代、京都帝国大学の学生であった頃の、まあその、若気の至りと申しましょうか、博覧強記の記憶と申しましょうか、まあとにかく、折角こうして飲み食いと致すところでございますから、食堂車のお話、お聞きください。


 今更お互い、年齢もそう変わるものではないかもしれませんが、お二人よりはいささか年長であります、このワタクシの遺言(ユイゴン)と言いますか、これを語らずしてあの世には参れぬとの思いでありまして、ぜひ、御拝聴戴きたく存じ奉ります。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「甲子園球場の阪神タイガースの応援団長みたいな口上を述べられたものや」

 堀田氏は呆れつつも、その話を聞く気満々である。

「それでしたら岡原先生、原稿にして鉄道雑誌にでも売られたらどうですか」

 思わず、山藤氏が尋ねる。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「そらあ、エエかも、ですな」


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