第43話 漢たちよ、熱き銃を放て!

 立てこもり犯の羽場狩雄と初老タクシードライバーの路鳩出仁郎はタクシーのドアを楯にして、周囲の様子をうかがっていた。その手にはそれぞれ、マシンガンとショットガン。

 四方を取り囲む追っ手たちが、今にも突撃してきそうな態勢だった。警察は拳銃、ヤクザたちも拳銃、警備員たちは警棒とスタンガンを、アスリートたちは槍、ハンマー、円盤、砲丸を携えている。

 羽場狩雄が問いかけた。

「なあ、運転手さん。トイレにまつわるエピソードで、印象に残っているものってあるか?」

「そうですねえ……昔、見たお芝居で、タイトルも作者も忘れてしまいましたけど……」

 路鳩出仁郎はその話を手短に語った。

 太平洋戦争中、主人公は警察に見張られていて、自分の家の中に入れなかったという。玄関からも窓からも。そこで主人公は閃いた。汲み取り式の便所から入ろうと。見事に成功するが、和式便器から顔を出した瞬間、ちょうどそこでは父親がウンコをしようとしていた。目と目が合った二人はお互いに明るく『やあ!』と挨拶し合ったそうだ。

 羽場狩雄も同様に語り出した。

「俺はあれだ、例の猫型ロボットだな」

 タイムマシンで未来へ行ったら、主人公の家があった場所が公衆便所に変わっていたというエピソード。

「実は俺の家も同じでね。ただ、俺の場合は逆で、公衆便所があった場所に家を建てたんだ。だから散々、クラスの連中にいじめられてね。あのマンガを読んだ時は、目頭が熱くなったよ」

 周囲の連中がじりじりと迫り始めてきた。警察サイドの一番先頭にいるのは、コンビニや公衆便所にいた刑事、東森栗斗だった。

「かかれ!」

 東森刑事の掛け声と同時に、警察、ヤクザ、警備員、アスリートたちが一斉に突っ込んできた。羽場狩雄と路鳩出仁郎は銃を構えた。

「かかってこいや!」

「派手に花火を打ち上げてやるぜ!」

 二人はタクシーの陰から飛び出すと、四方に向かって順繰りに銃をぶっ放していった。警察もヤクザも撃ち返した。乱射、乱射、乱射の壮絶な銃撃戦。

 羽場狩雄も路鳩出仁郎も東森刑事もお互いにズタズタに撃たれ、ゆるやかな動きで、舞うように崩れ落ちていった。


                (続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る