第40話 黄金ペットと佐村井武士の最期

 一緒に走っていた俺と立てこもり犯は、目の前に現れたタクシーに乗り込んだ。初老の運転手がアクセルを思いきり踏んだ。

 追っ手の警察、警備員、ヤクザ、アスリートたちが行く手を阻んだり、車上に乗っかってきたり、窓をぶち破ろうとしてきた。だが、タクシーは構わず振り落とし、撥ね飛ばして、猛スピードで走り去った。


 ようやく俺たちは、後部座席で落ち着きを取り戻した。運転手が嬉しそうに話しかけてきた。

「そうそう、これでもう完璧になりましたよ」

 手にしているのは2リットルのペットボトル容器。ほうじ茶が半分ほど入っている。

「前、危ない!」

 俺は前方を指差した。力なくフラフラと道を横断しようとしてきたスーツ姿の男性がいた。運転手はあわててハンドルを切るが間に合わず、通行人を吹っ飛ばしてしまった。

「まずい……もう、このまま行きますよ!」

「運転手さん、ペットボトルの蓋がちゃんと閉まっていなかったですよ。お茶が全部、引っかかりました」

「すみませんねえ。それ、私のおしっこなんです」

 それを先に言え。

「それにしても、今、私が撥ねちゃった人、一瞬だったけど、見覚えがあるんですよね……。プロポーズリングを持って、今夜、二度も乗せた人」

 俺は剥ぎ取ったシートカバーで一生懸命に服を拭いていたので、まともに聞いていなかった。

「どうして子供はみんな、学校でウンコをするのを嫌がるんだろう?」

 隣の立てこもり犯はつぶやいた。他人の尿が服にかかって濡れているのに、窓の外をぼんやりと眺めていた。

「俺もその一人だった。したくても、人目を気にして、ひたすら耐えた。でも、中には我慢できない奴もいたんだ。しかも、運悪くクラスの連中に見つかって……」


                (続く)

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