第35話 川屋勉とショーウインドー

 俺は朦朧としながら、ひと気のない夜更けすぎの街中を歩いていた。

 記憶が飛び飛びである。たしか、簡易トイレの中でひっくり返されて、脱出したら高速道路のトラックの上で……。

 そしてまだ、俺はウンコができずにいる。トイレはどこだ、トイレはどこだ、トイレはどこだ。

 あるじゃないか。目の前に。ガラス越しに。

 便器が整然と展示されて並んでいた。トイレのショールームだ。

 俺は違法駐輪されていた自転車を抱え上げると、ショーウインドーめがけて思いっきり放り投げた。激しく飛び散るガラス片。同時に、警報がガンガンに鳴り出す。それでも俺は侵入し、一番近くの便器に腰掛けようとした。

 奥のドアから警備員が一斉に登場した。常駐していたのか? しかも、こんなに大勢?

 俺はズボンのベルトを抜くと、取り囲む制服集団の顔面目がけて、勢いよく打ちまくった。しなう鞭。

 奴らがうろたえている隙に、割れたガラスの穴から脱出した。


 またしても未遂に終わった。俺は通りをさまよう。

 こんな深夜なのに、前方に人だかりができていた。公園を取り囲むように、野次馬たち。いくつものパトカーや装甲車、パトランプが点滅する中、規制線が張られ、武装した警察官たちが緊迫した表情で行き来していた。特殊部隊らしきチームもいる。

 いったい、何があったのだ……?


                (続く)

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