第33話 女子大生のクリスマス腹上死【花子の告白】

 大学時代、私はケーキ屋さんでアルバイトをしていた。商店街にある、個人経営の小さなお店。

 あの日は、クリスマス当日の夜だった。

「ありがとうございました!」

 ジングルベルが流れる中、私はサンタ姿でレジに立ち、ケーキをお客さんに手渡した。

「店長、完売しました!」

 奥の作業場へ報告をしに行くと、いきなり背後から男がしがみついてきた。

「ホテルまで我慢してください、店長」

「もう待ち切れん。いいだろ」

 初老の店長はコックコート姿のまま、私のサンタコスの中に手を入れてきた。

「お客さんが来ちゃいますよ」

「閉店だ、閉店!」

 店長は私を作業台の上に寝かせ、覆いかぶさった。

「今日は朝から君のことばかり考えていたから、ケーキもいい加減に作っていたんだ!」

 挿入された瞬間、店長の全身がガクッと脱力し、私の上にのしかかってきた。

「店長、イクには早すぎますよ」

 揺すっても、店長の反応はなかった。

「店長……店長っ!」

 店長は白目を剥いたまま、息をしていない。

 腹上死。

 私は体を離そうとするが、巨漢の店長ゆえに身動きが取れなかった。

 売り場のほうから店員を呼ぶ声が聞こえてきた。お客さんか?

「申し訳ありません! 本日は売り切れました!」

 私は大声で叫んだ。売り場から応答がある。

「予約をしていた者ですが」

 作業台の私のすぐそばに、ケーキが置いてあった。これをどうやって渡せばいいのだろう?

 そうか。作業台の下に私たちが隠れて、お客さんにこのケーキを自分で持っていってもらおう。

 私は重い店長を乗せたまま体を少しずつずらし、作業台からの転落を試みた。落ちるあいだに体を半回転させ、店長にはクッションになってもらわなければいけない。

 作業台の端まで来た時、バランスが崩れ、台とともに倒壊した。激しい物音。店長がクッションになってくれたおかげで助かった。しかし、予約のケーキは店長の顔面の上に盛大に落ちていた。

 そして、お客さんが何ごとかとあわてて入ってきた。

 私は大勢の野次馬を前にして、結合したままのサンタ姿で、ケーキまみれの店長と一緒に担架に乗せられ、救急車で運ばれていった。

 私の人生はこんなことの連続だ。でも、彼と出会って、生まれて初めて幸せが訪れたのだった。


                (続く)

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