第28話 川屋勉と家族の断絶
自宅と間違えて不法侵入してしまった俺は、相手家族にひたすら謝罪し、四〇二号室をあとにした。そして真下の四〇二号室、マイホームの前に立った。
施錠。うん、ちゃんと用心している。
インターフォンを押す。沈黙。
外はいつのまにか、強い雨が降っていた。
今、俺はマンションのパイプやベランダの端につかまりながら、外壁をよじ登っていた。暗がりと風と濡れているせいで、何度も滑っては落ちかけ、服を引っかけては破いてしまった。
途中でパイプが外れ、マンションの壁から離れて宙ぶらりんにもなった。まるで、ミッション・インポだ。
やっとのことで、三階のベランダに到達した俺は窓ガラスを激しく叩いた。
「開けてくれ! 俺だ! 頼む、開けてくれ!」
叫べども、女房も息子たちも起きてこない。
「静かにしろ!」
怒鳴り声が響いた。先ほどの真上に住む中年男性がベランダから乗り出し、見下ろしていた。
俺はまた平謝りし、スマホをいじることにした。通話で、メッセージで送信し続ける。
無反応。
本当に悪かった。仕事という言い訳で、家事も育児もしてこなかった。最近は帰宅しても、誰も相手にしてくれない。すべて自分のせいだ。
だからって、この仕打ちはないだろう? 困っている時くらい、助け合うのが家族じゃないか。俺たちは家族だろう? 違うのか? ひとつ屋根の下に住むだけの赤の他人なのか?
頬が濡れているのは、きっと雨だけのせいではない……。
(続く)
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