第25話 川屋勉、バスにしがみつく
俺と妊婦とその旦那を後部座席に乗せたタクシーは歩道に乗り上げたまま、動かなかった。旦那が急かしても、運転手はエンジンをかけることができなかった。故障したのか。それとも、漏らして気力を失ったのか。
車道をバスが追い越していき、前方の停留所に止まるのが見えた。俺は一人で降り、急いでバスに向かった。残していく人間のことなんて知るもんか。
俺は乗り込もうとしたが、バスの運転手に注意された。
「これは深夜急行バスだから、途中からの乗車はできませんよ」
「初めから乗った料金を払いますから」
「とにかく規則なので」
いきなり目の前でドアを閉められ、深夜バスは走り出した。
だが、俺はあきらめない。バス後部にある取っ手をつかんで、バンパーに飛び乗った。落ちそうになりながらも必死にしがみつき、夜の郊外を疾走する。
途中、ゴミ収集車を追い抜いていった。収集車の後ろで、同じような体勢で乗っていた作業員が驚いて見返していた。
そろそろだ。大通りを右折するバス。俺は慎重に飛び降りたが、勢い余ってゴミ置き場の山に突っ込んでしまった。ゴミ袋の中から立ち上がり、見上げた。
中古のマンション。我が家だ。
(続く)
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