第21話 イケメン会社員、佐村井武士の焦燥

 リングケースを手にした佐村井武士は路上に立ち尽くし、焦っていた。何度もスマホでかけ続け、ようやく通話がつながった。

「花子、今、どこにいるんだ?」

「武士こそ、どこなの?」

 彼女の声は、やはりいつもと違った。絶対、何かあったのだ。

「君のアパートの前だよ。インターフォンを押しても出ないし、部屋の中は真っ暗だし」

 返事がない。着信音が鳴らなかったので、部屋の中にいないことは確かだ。

「大事な話があると言っただろ。それとも何かトラブったのか。だったら、すぐにそっちへ行くぞ」

「そうじゃない……」

「じゃあ、何だ? まさか……まさか、もう俺のことを……」

 武士は不安に襲われた。

「違う! それだけは絶対に違う! 信じて! だけど、今日だけは会いたくないの」

 彼女は一方的に通話を切ってしまった。かけ直しても、出てくれない。

 最悪の事態が訪れようとしている。とにかく会わなければ。会って、話さえすれば。

 彼女の今いる場所。いったい、どこに?

 こうなったら、アレを使うしかない……。


                (続く)

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