第17話 終電の川屋勉、時代劇へ
俺は映画館からどうにか脱出し、駅へと急いだ。
だが、時すでに遅し。最終電車が発車し始めていた。トイレだけでなく、終電もダメなのか。
ラストチャンスに賭けた。助走する列車の車掌室の扉がまだ開いていたのだ。俺は並走しながら車掌を奥へ突き飛ばし、車掌室に飛び乗った。そしてすぐに、一般車両へと入る。
車内放送で、車掌の怒りに満ちたアナウンスが響いた。
「危険なご乗車はおやめください!」
電車のことが気になっていたせいか、お腹はしばし、小康状態だった。座ったら、お尻に刺激を与えそうなので立ったままでいた。家に着けば、地元の駅に着けば……。
ふと横を見ると、若いカップルが人目を気にせず、熱いキスを交わしていた。こういう光景も当たり前になってしまった。
さらに一方へ視線を向け、ギョッとなった。ドア付近にいた別のカップルが、バックスタイルでセックスをしているのだ。堂々と、である。なのに、周囲の乗客たちは無関心で、スマホを見たり、音楽を聴いたりしていた。
何という時代になったのだ。
待てよ。人前キス、人前セックスが許されるのなら、人前ウンコもいいんじゃないのか。よし、こうなったら、思い切って……。
突如、俺は髷を結い、裃を着けて、お城の大広間にいた。周囲は同様に、大勢の家臣たちが控えて、家老が現れるのを待っていた。
すると、同僚たちが顔をしかめたり、鼻を啜ったり、手で扇いだりし始めた。中の一人が扇子で俺を差した。
「川屋殿! お主、武士として恥ずかしくないのか!」
その時の俺はきっと恍惚の笑みを浮かべていたに違いない。
そして、屋敷の中庭。白装束の俺は短刀を手にし、今まさに腹を詰めようとしていた。粗相した挙句の末路だった。
無念の思いで、ひと思いに突き刺した。
(続く)
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