第13話 俺の名前は佐村井武士、職業リーマン

 スーツ姿の佐村井武士はスマホで呼び出していた。何度メッセージを送っても、返信がなかったからだ。

 このバーで待ち合わせるはずだったのに、御手洗花子は現れない。何か事故かトラブルに巻き込まれていたら、大変だ。

 つながった。彼女が通話に出たのだ。

「花子、何してるんだ? ずっと待ってるんだぞ」

「ごめん……」

「何? もう少し大きな声で」

「それが、その……」

 店内が騒がしい。救急隊が到着したようだった。

 先ほど、佐村井がトイレで大きいほうを済ませたら、二人の下半身丸出し男に遭遇した。一人は中腰状態のよく分からないポーズ。もう一人は床でうつ伏せになっていた。中腰男が何やら言い訳をしていたが、佐村井はその場しのぎでいろいろ口走りながら、トイレから逃げ出したのだった。

「まだ会社にいるのか?」

「今日、逢うのやめよう」

 花子はデートのキャンセルを申し出てきた。

「何、言ってるんだよ。約束してただろ。大事な話があるって」

「ちょっと風邪こじらせちゃって。ゆっくり休みたいの」

「じゃあ、家にいるんだな。ちょっとだけでも会おう」

 花子が何か言いかけていたが、佐村井は背後を通りかかる救急隊に押されて、通話を切ってしまった。

 野次馬たちが群がって見学している。中には撮影する者も。

 担架に乗せられて運び出されてきた男は、まだ意識を失ったまま、お尻を全開にしていた。


                (続く)

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