第14話 【人間便器】女子高生と女教師と御不浄
草井香織はクラスメートの小楢風奈、そして担任の先生と一緒に女子トイレへ逃げ込んだ。
いったい、この学校で何が起こっているのか? 不気味な影や音が存在する。校舎の外へ出られず、連絡もつかない。そして、生徒や教師たちが死んでいく。みんな、パニックになり、逃げ回った。一人減り、また一人減り……。
三人は片隅に寄り添って、うずくまった。
「ここまで来れば、もう安心よ」
先生は自分に言い聞かせるような口調だった。安心のはずがない。
「どうして、外へ出られないの? まるで学校全体が生きているみたい……」
泣きながら、風奈がつぶやいた。
「あっ……!」
香織が個室のドアを指差す。
無人のはずの戸が自然に開き、洋式便器が三人と向き合う姿で現れた。蓋や便座がカッタンカッタンと上がり下がりし、勝手に水が流れる。まるで、笑ったり、泣いたり、怒ったりしているみたいだ。
香織はハッとなった。
「このトイレ……そうよ! このトイレで彼女は死んだのよ!」
半年前、一人の女子生徒がこの個室で首を吊って自殺した。ひどいいじめを受けていたのだ。
そして最近になって、加害者グループの女子たちが次々と怪死していった。きっと怨霊となったいじめられっ子に、復讐されたのだろう。
突如、便座だけが本体から分離し、ブーメランのごとく襲いかかってきた。間一髪、三人は頭を下げ、便座はタイルの壁に突き刺さった。
「早く逃げなさい!」
先生は香織と風奈を先に行かせようとした。足がもつれた風奈が前のめりに倒れた。先生が必死に助け起こそうとするが、風奈はもう力が入らないようだった。
「香織さん、先に!」
香織だけ廊下へ押し出されて、ドアが閉まった。香織はドアを開けようとするが、中で先生が寄りかかっているのか、ビクともしない。
「先生、開けて!」
「いいから、助けを呼んできて!」
中にいる先生と風奈はドアの前でへたり込んでいた。
便器が……便器が床から外れた。そのまま、ゆっくり前進してくる。
腰を抜かして、身動きの取れない風奈。
「先生……今さら遅いよね。ゴメンって謝ったって」
「私だってそうよ。いじめを、ずっと見て見ぬふりをしてきたんだもの」
先生はそばにあったモップを手にし、片膝をついて身構えた。
「さあ、かかってきなさい」
便器は二人の目の前で停止した。まるで鮫や恐竜が大口を開けるかのように、うなり声を上げながら蓋が開いた。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。