第12話 女子高生は花を摘む

 ここは都内にある女子高校。放課後のひっそりと静まり返った校舎を、一人の女子生徒が小走りにやってきた。

 誰もいないトイレ、その個室に入って用を足す。トイレットペーパーに手を伸ばした瞬間、ズルッと洋式便器に体が沈んだ。

「?」

 彼女はいったい何が起こったのかと、キョトンとなったが、すぐにまた体が傾いた。手を足をバタバタさせても強引に引っ張られ、どんどん便器の中へ吸い込まれていく。

 響き渡る悲鳴。無人の廊下、無人の校庭、無人の校門前に。

 だが、彼女の叫び声はどこにも届かない。

 個室のドアが開くと、中に女子生徒の姿はなかった。蓋の閉まった便座の隙間から、真っ赤な血が一筋、伝って落ちていった。


 そこに大きくタイトルが現れた。

 『人間便器』

 原作・江戸川珍歩と続いた。


 朝の電車の中、乗客がスマホのニュースを読んでいた。

 見出しは『都内の女子高校生、謎の失踪。すでに三人目』

 車内は通勤通学時間帯で、そこそこ混み合っていた。吊革につかまっていた制服姿の草井香織がハッとなった。お尻を触る不届き者がいる。

「この人、痴漢です!」

 香織はグイっとつかんで引き上げた。

 ベビーカーに乗っていた赤ちゃんの手。母親が恐縮してひたすら謝ってきた。赤ちゃんがギャン泣きする中、香織のほうこそ、申し訳なさでいっぱいだった。


 香織は教室の窓の外をぼんやり眺め、ホームルーム中の女教師の話はうわの空だった。

「必ず二人以上で行動すること。それから、登下校中に不審な人を見かけたら、すぐに……」

 通話の着信音が鳴り出したので、みんな、一斉に自分のスマホを調べ始めた。

「香織さん、草井香織さん。今なら怒らないから早く切りなさい」

「私じゃ、ありません!」

「じゃあ、誰ですか? 授業中はオフにしておきなさいと言ってるでしょ!」

 それでも着信音は鳴り止まない。


 御手洗花子がハッと目覚めた。相変わらず、トイレの便器から抜け出せないまま、うつらうつらしていたのだ。

 そして、スマホの呼び出し音が鳴っている……。


                (続く)

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